豚インフルエンザ(インフルエンザA型(H1N1))について
追記:最後に「追記」と中見出しして状況を更新していますが、情報が古くなっている可能性は常に考慮して下さい。厚生労働省:新型インフルエンザに関する情報や国立感染症研究所 感染症情報センター<ブタインフルエンザ>にて、是非最新情報をご確認下さい。
最近巷を騒がせている豚インフルエンザですが、27日付けでパンデミック(世界的大流行)警戒レベルが3から4にひき上げられました。……って聞くと何か厨房っぽい凄そうですが、取り敢えず今のところは、日常生活を送っていても全然大丈夫な状況のようです。こう言う時は何はさておき冷静になる事が必要ですよ。深夜酔っぱらって公園で全裸になるなどの行為は、感染リスクを増やしますので慎んだ方が良いでしょう。私も昨夜は自宅で我慢しました。
ド素人も良い所の私としては、この件は専門家に任せて静かに自宅で全裸待機成り行きを見守ろうと思っていたんですが。asahi.com(朝日新聞社):松屋、豚テキ定食の販売中止 メキシコ産豚肉使用
牛丼チェーンの松屋フーズは27日、メキシコ産の豚肉をステーキ状に焼いた「豚テキ定食」(税込み680円)の販売を一時中止することを明らかにした。「豚肉は安全と聞いているが、自社の検査結果が出るまで見合わせる」(広報担当)という。
こう言う対応を取られたら、一言いわざるを得ません牛丼は松屋派として。ただでさえアホな経営陣のせいで某牛丼チェーン店に行けなくなっている現状なのですから、牛丼屋さんには冷静な対応を望みます。このままだと吉牛しか選択肢が無くなってしまいますので。味噌汁くらいロハで付けてくれ。
松屋は今回、非常に問題のある対応をしたと私は思っています。と言うのは、豚肉、と言うより食品から感染する事は、まず考えられないからです。いかに客からの要望があろうとも、こう言った対応はいたずらに不安をあおるだけです。他の飲食店に対し悪影響もあるでしょう。
こう言う事なかれ主義の対応は、悪しき前例となっていずれ業界全体の首を絞める事になります。むしろお客を教育する、という気概が欲しい所です。
と、言いっぱなしもなんなので。取り敢えず自ら気概を示してみようと思います。
豚インフルエンザがどういう病気なのか、ざくっとまとめてみました。
豚インフルエンザって、どんな病気?
Q:豚インフルエンザって、なんですか。
A:豚のインフルエンザです。
Q:……。
A:A型インフルエンザによって起こる豚の呼吸器疾患です。ごくまれに人にも感染する事があります。
Q:感染すると、どうなりますか?
A:インフルエンザになります。豚が。死亡率は1〜4%と見られてます。豚の。
Q:…………。
A:一般的に、臨床症状は季節性のインフルエンザと類似していますが、無症候性感染から重症肺炎で死亡に至るまで幅広い臨床症状を呈します。
Q:つまり?
A:基本的には普通のインフルエンザと変わらない、と言う事です。
Q:じゃあ、どうしてこんなに騒ぎになっているんですか?
A:従来の豚インフルエンザは、感染者があくまで豚と接触している人に限られ、感染源も豚だったので対処が容易でした。今回問題となっているのは、人から人に感染していると見られているからです。
Q:それが何で問題なの?
A:特にブタと日常的に接触のない多くの人は、ウイルス感染を予防することが可能なブタインフルエンザに対する免疫を持っていないと考えられます。もし、ブタインフルエンザウイルスがヒトからヒトへの感染を効率的に起こすならば、インフルエンザのパンデミックを引き起こすことが可能になります。このようなウイルスによって引き起こされるパンデミックの影響は、予想が困難です。ウイルスの毒性、ヒトにおいてすでに存在する免疫状態、季節性のインフルエンザ感染で獲得した抗体による交差防御、および宿主の要因によります。
Q:――どこから引用した。
A:ブタインフルエンザに関するよくある質問:国立感染症研究所 感染症情報センター
一言で言うなら。豚インフルエンザが恐ろしい理由は、それが人類にとって未知の敵だからです。
未知、と言うのは二つの側面からです。一つは感染歴。定期的に流行る季節性のインフルエンザなら、多くの人が過去感染していて抗体をもっています。なので重症になるケースは、子供やお年寄りなど、体の抵抗力が弱い人に限られるのですが、今回問題となっている豚インフルエンザには多くの人が抗体を持っていません。実際、メキシコのケースを見ると、むしろ若い層に被害が見られます*1。重症化しやすい事が懸念されています。
もう一つは、文字通りの未知、このウィルスと感染症が人類にとってほとんど研究されていない事を意味します。
分からないことはたくさんあります。なぜメキシコ?なぜメキシコでは死亡率が高いの?これからパンデミックになるの?分かりません。今、世界のどの専門家に訊いても分かりません。時間と気分に余裕のあるときにはこのような疑問に思考をめぐらせるのも楽しい知的遊戯ですが、現場でどがちゃかしているときは、時間の無駄以外の何者でもありません。知者と愚者を分けるのは、知識の多寡ではなく、自分が知らないこと、現時点ではわかり得ないこととそうでないものを峻別できるか否かにかかっています。そして、分からないことには素直に「分かりません」というのが誠実でまっとうな回答なのです。
・情報は一所懸命収集してください。でも、情報には「中腰」で対峙しましょう。炭疽菌事件では、米国CDCが「過去のデータ」を参照して郵便局員に「封をした郵便物から炭疽感染はない。いつもどおり仕事をしなさい」と言いました。それは間違いで、郵便局員の患者・死者がでてしまいました。未曾有の出来事では、過去のデータは参考になりますが、すがりつくほどの価値はありません。
「最新の」情報の多くはガセネタです。ガセネタだったことにむかつくのではなく、こういうときはガセネタが出やすいものである、と腹をくくってしまうのが一番です。他者を変えるのと、自分が変わるのでは、後者が圧倒的にらくちんです。
これは、かつてSARSを経験された神戸大学感染症内科 岩田健太郎先生が、研修医に向けて豚インフルエンザを解説した文章です。共有資料3 「研修医の皆さんへ」(神戸大学 岩田教授) - 感染症診療の原則から引用させて頂きました。
現状、まだ情報収集の段階であると考えるべきでしょう。パンデミックするかどうか、したとして、重症化するかどうか、責任持って断言できる人はいません。真に有効な対策は、これから人類が手探りで探っていかなければならないのです。文字通り命がけで。
豚インフルエンザ どうすればいい?
Q:対策は?
A:基本的に、普通のインフルエンザと同じで大丈夫。
Q:本当に?
A:本当。マスク・手洗い・うがい。人混みを避け、十分な休息をとり、罹患したら最寄りの医療施設へ行く保健所に電話。最も、現時点では日本で豚インフルエンザは確認されていないが。
Q:豚肉は食べない方が良い?
A:んなわけあるかい! 大体、加熱して食べる豚肉から感染するとは考え難い*2が、食肉は殺菌・滅菌加工されるし、(豚)インフルエンザは食品から経口感染するような病気じゃない。そもそも、「豚インフルエンザ」と呼んではいるが、感染した豚から人に感染するとは限らない。「スペイン風邪」のように、今後は南アメリカインフルエンザ、とか地名を冠した表現になる可能性もある。
Q:メキシコ産の食……
A:だーかーら。食品は感染ルートにならないと言ってんだろが。よしんば、メキシコで感染者が飛沫(くしゃみとか)を食品に飛ばしたとしても、日本に来るまでの間でウィルスは完全に死滅している。
Q:メキシコ旅行は?
A:現在、外務省は「不要不急の渡航は延期してください。」と勧告している。因みに在留邦人に対しては「不要不急の外出は控え、十分な食料・飲料水の備蓄とともに、安全な場所にとどまり、感染防止対策を徹底してください。」「今後、出国制限が行われる可能性又は現地で十分な医療が受けられなくなる可能性がありますので、メキシコからの退避が可能な方は、早めの退避を検討してください。」だそうだ。行くなら、感染対策をキチンと施して、帰国した際にも、まかり間違っても国内に持ち込まないよう細心の注意を払う必要があるだろう。最悪万単位の死者を出し国家そのものが破壊されかねない事を考えると、お薦めしかねるが。
幸い、抗ウイルス薬が有効なようなので、一部新聞がかき立てるほどの大惨事にはならないだろう、とは思います。メキシコ以外での軽症化も気になるポイントです。ただ、繰り返しますが、これは人類にとって初めての出来事です。予断は許しません。もっとも
・あなたが不安に思っているときは、それ以上に周りはもっと不安かも知れません。自分の不安は5秒間だけ棚上げにして、まずは周りの不安に対応してあげてください。豚インフルのリスクは、少なくとも僕たちが今知っている限り、かつて遭遇した感染症のリスクをむちゃくちゃに逸脱しているわけではありません。北京にいたときは、在住日本人がSARSのリスクにおののいてパニックに陥りましたが、実際にはそれよりもはるかに死亡者の多かった交通事故には全く無頓着でした。ぼくたちはリスクをまっとうに見つめる訓練を受けておらず、しばしばリスクを歪めて捕らえてしまいます。普段の診療をちゃんとやっているのなら、豚インフルのリスクに不安を感じるのはいいとしても、パニックになる必要はありません。
引用は上と同じく「研修医の皆さんへ」から。
過剰に恐れる必要はありません。インフルエンザは、防げる病気です。ちゃんと対策すれば、豚インフルエンザも防げます。
最も大切な事は、冷静に対処する事です。
追記
2009/04/30 19:23
29日付けで、WHOはパンデミック警戒レベルをフェーズ4からフェーズ5に引き上げました。フェーズ6でパンデミック(世界的大流行)発生、ですので危機的状況にある事は事実ですが、水際での防衛や流行の抑止策が失敗した訳でもパンデミックが確定的になった訳でも、まだありません。ですので、秒読み・時間の問題等と判断するのは早計です。
また、今回のウイルスは「弱毒性」との見解が示されました。新型インフル:ウイルスは弱毒性 田代WHO委員 - 毎日jp(毎日新聞)
世界保健機関(WHO)緊急委員会委員の田代真人・国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター長は28日、記者会見し、今回のウイルスは「弱毒性」との見解を示した。
(中略)
田代氏は毒性について「今後、遺伝子の突然変異で病原性を獲得しないという保証はない」とした。そのうえで、遺伝子解析の「予備的データ」の結果として現段階で「強い病原性を示唆するような遺伝子はない」と「弱毒性」との認識を示した。被害については、現在の毒性が変わらなければ、パンデミックを起こしても、約200万人が死亡した57年の「アジア風邪の規模かもしれない」とした。
数千万人規模の死者が想定される強毒性H5N1型と「全く横並びに判断していいものではない」と話した。
「強毒性H5N1型」とは、いわゆる鳥インフルエンザのことです。現時点では、鳥インフルエンザと違って豚インフルエンザは呼吸器以外に感染しないと見られています。が、インフルエンザウイルスは変異しやすく、流行中に強毒性に変わることも十分に考えられます。また、弱毒性といっても感染力が低い訳ではない事に注意して下さい。
エントリーでも触れましたが、「豚インフルエンザ」という呼称は変更される可能性があります。現時点でも「新型インフルエンザ」と書かれる事もありますが、従来この呼称は鳥インフルエンザを指します。豚〜の状況がどう移行しようとも鳥〜の危険性は低下しません。というより、鳥〜のパンデミックの危険性はむしろ増えるでしょう。両者を取り違えることなく、冷静に判断して下さい。当面、このエントリーでは「豚インフルエンザ」と呼びます。
2009/05/01 17:19
4月30日より、WHOは新型(豚)インフルエンザウィルスの呼称をインフルエンザA型(H1N1)と改めました。「当面、このエントリーでは「豚インフルエンザ」と呼びます」と言って24時間経たっていないので恐縮ですが、以後「インフルエンザA型」と呼ぶ事にします。
2009/05/05 19:04
日本において、このところ新型インフルエンザA型感染の「疑い例」が頻発しています。これは従来の季節型インフルエンザを検査キットが拾ってしまう事が一因ですが、それはそれとして報道がやや過剰ですね。「本番」の時が非常に憂慮されます。
感染者が出たとしても、それ自体では現状は何も悪化しない事を忘れないで下さい。国内において複数の人―人感染が確認されるまでは、国内での流行には結びつきません。
大変、言いづらいのですが。TV・新聞等大手マスコミ各社はややセンセーショナルに取り扱いすぎるきらいがあります。現場や対応に関するかなり的外れな批判も多く目にします。これをご覧の方には、上のリンクから直接厚労省かWHO、国立感染症研究所にアクセスして情報を仕入れる事を推奨いたします。
WHOがパンデミック宣言にあたるフェーズ6を出すかどうか、注目されています。
上記したように、国際的なパンデミックがすぐに国内の大流行に繋がる訳ではありません。また、海外ならどこでも危険、と言う事もありません。海外に渡航する際は外務省の海外安全ホームページ等で渡航先の情報を仕入れておくと良いでしょう。
一部表現を修正しました。罹患したと思ったなら、先ず保健所に電話して発熱外来に行って下さい。前もって電話番号を控えておくと良いでしょう。
一般病院では処置できない可能性があります。って言うか無理です。感染初期に治療する事が生還率に直結しますし、手当てが遅れればそれだけ二次感染の機会も増えます。
迷わず、先ずは保健所の関係部署に電話、です。
2009/05/09 12:54
国内初の感染者が確認されました。幸い、入国前に確認でき症状も軽いと言う事です。
国内での感染拡大、という話ではありません。また、政府は飛行機の同乗者をフォローしていますが、(例え感染していても)彼らと接触した所で直ちに感染と言う訳ではありません。一般に、インフルエンザは発症するまで(潜伏期間は平均三日)は感染力は低いと見られています。
強毒性と弱毒性について
今回の新型インフルエンザA(H1N1)型は季節性のインフルエンザと同じく「弱毒性」と見られています。これはウィルスが鼻と喉上部に感染し、肺にまでは(通常)浸食しない為、急激に重篤な症状を呈さない事が理由です。これが「強毒性」の例えばH5N1型いわゆる鳥インフルエンザだと、肺に感染が生じそこでウイルスが猛烈な勢いで増殖する為、肺の呼吸機能が損なわれ肺炎や呼吸困難を引き起こします。
単純に死亡率で比べるなら、強毒性と弱毒性では雲泥の差があります。ただし、感染力を比べるなら大差ありません。
過剰に怯える必要はありませんが、適切に対処する必要はあります。
・「季節性インフルエンザ」の流行で危険性が高い集団は、同様に危険。(乳幼児・妊婦・慢性疾患の患者・高齢者)
・ 例年なら「ワクチン接種によって免疫を獲得している高齢者」が今回は「0」(例年は5割〜6割。それでも死者のほとんどは高齢者)
・「弱毒だから心配ない」と勝手に考える軽症者が動き回る事で感染が拡大する。(他人に感染を拡大させる加害者という自覚が無い)この最後の部分が「オレはインフルエンザなんか平気だ」と豪語してウイルスをまき散らしながら動き回り、「季節性インフルエンザ」による死者を拡大させている人間の無責任さ、という部分です。
今回の流行を「パンデミック」と呼ぶ場合、「騒いでいた割には何も危なくなかった。パンデミックなんて、一部の人間が金儲けの為に仕組んだ猿芝居」、という誤認が生じる可能性と、「H5N1用の過剰な計画をそのまま適用しようとする事で社会に不要な経済混乱が生じる」事が懸念されます。
どちらも、ろくでもないものです。
「弱毒だから心配ない」vs「パンデミックは怖い」(インフルエンザA型(H1N1)) / 科学ニュースあらかるとより引用。
2009年5月17日2:41
日本国内において、海外渡航歴のない人の感染が確認されました。複数の人間が、国内において感染しているようです。
水際対策は、既に発症している人をふるいにかけ、できるだけ国内に菌を入れないで感染拡大の出足を押さえる「時間稼ぎ」であって、完全にシャットアウトする対策ではそもそもありません。すり抜けた、のは確かですが、それは水際対策が機能しなかった事を意味しません。引き続き、水際の対策「も」必要です。
国内の感染は言ってみれば、想定の範囲内、です。専門家で、今回の事態を予想していない人はいません。もちろん、対応策もしっかり検討されています。冷静に対処しましょう。
繰り返しになりますが。対策は普通のインフルエンザと同じで大丈夫です。手洗い・うがいはとても重要です。発熱等がありましたら、地域の発熱外来か保健所に電話して下さい。万が一発症したら、人に感染させないよう、できる限り、出歩かないようにしましょう。
2009年6月12日 1:12(最終更新)
これを書いている段階ではまだですが、WHOがパンデミックを宣言しそうです。世界的な大流行を意味しますが、素人考えですが、恐らく宣言の決め手の一つは日本での流行です。つまり皮肉なことに、今回の宣言は日本においてほとんど意味を持ちません。
また、こちらの方が影響は大きいでしょうが、厚生労働省が全国約500か所の協力医療機関で、インフルエンザ患者全員のウイルス調査を実施すると発表しました。今までは自治体に任されていた為、あくまで渡航者を中心に調査されていましたが、これを機に多くの――場合によっては桁違いの――感染者が報告されるでしょう。
いずれにせよ、日本の状況がこれで変化すると言う話ではありません。既に日本においては新型インフルエンザは全国に蔓延していると考えた方がいいでしょう。幸い、弱毒性である新型インフルエンザAは、季節性インフルエンザと同様、今後梅雨に入り秋口まで感染拡大が抑えられると考えられています。
さて。今まで追記でアップデートしてきましたが、今後の展開を予想すると追記すべき事柄としては、もう強毒化の徴候位でしょう。その時は改めてエントリーを上げることにして、今後このエントリーの追記は控えようと思います。
今まで参照下さりありがとうございます。