それは多分、気のせい。

 某所で入手した地域新聞に面白い広告が載っていました。

癒され処 えがったァ*1

手から気(生命力)を注入!
全身温かく軽く、やる気もUP

 『車はガソリンがないと動きません。それと同じように人間は気(生命力)がないと動けません』ストレス、疲れ、痛み……等でとにかく体の調子がすぐれない方はまず体験してみてください!!ほとんどの方が一回目から効果を実感されています。帰宅後も改善はさらに続きます。

 えがったァ、はお客の感想ではなくて、店名です。
 私は今まで、人間でガソリンにあたるモノは「食い物」だと思ってましたが、どうやら気のせいでした
 「気」がガソリンのように定量化できるものなら、ここには出来るだけ早い時間に行った方が良さそうです。なぜって? だって人に気を注入したら、その分施術者のやる気が減るじゃないですか。 
 モチロン、この人が「元気玉」の使い手である可能性はあります。あるいは部屋の真ん中でオーラ気の泉が湧き出てるとか。ちょっと調べてみようとHP経由でブログを覗いてみました。
 予感大当たり。以下太字は引用者。

「えがったァ」の気のパワーが更にバワーアップしております。

今では、汗は部屋に入っただけでほとんど治ってしまいます。

多汗症、手足の冷たい汗、更年期等からの汗等です。

勿論汗が出なくてお困りの方は、出るようにもなっております。

 部屋に入るだけでいいらしいです。その気はどこから奪ってきた経由したものか非常に気になりますが、急いで駆け付ける必要はないようですね。
 他にも、是非皆さんに知って貰いたい驚愕の事実がてんこ盛りです。いくつか箇条書きしましょう。なお赤字は私の突っ込みです。

   ・建物の中にいると大気からの「気」が受けられない。すると「部屋」の泉はやはりどこかから……  
   ・排気ガスなどで汚れた空気からは気は受けられない  
   ・アスファルトで覆われた地面からは、大地の気は受けられない。気にもいろいろあるようです。「建物の気」や「排気ガスの気」があったって良いように思いますが  
   ・ハウス栽培、輸入が増え食べ物からは気を補給出来ない
   ・「気」が不足すると更年期障害認知症のリスクが高まると言われています誰に?
   ・「気」が不足すると血や水のめぐる速度が遅くなります。(ひどい場合、健康な人の四分の一)どうやって測定したんでしょうか。
 
 なかなか驚くべき主張です。エビデンス? 何を無粋な
 
 さて、気のメカニズムを楽しく学習していると、こんな記述が。 

気でお腹を温めて・・・・自律神経の安定、内臓の血行促進。血液は腸で作られるとも、若返りの秘訣とも

千島学説話には聞いていましたが、まさか自分で発見してしまうとは。う〜ん、遠い国の話だと思っていたんだけどなぁ。「なにそれ?」という方はなにはさておきコチラ「千島学説(腸内造血説)に関するFAQ」→http://members.jcom.home.ne.jp/natrom/chishima.htmlをご覧ください。

 ネタ不足の折、いろいろと難癖ぎみに書いてきましたが、一施術2000円、新規は500円サービス(HPには初めての方1,000円〜と書いてありましたが)という値段は、ツボ押し&マッサージの料金としてはそう高くもないので、実のところあまり問題には感じておりません*2。話の種に行ってみても良いんじゃないでしょうか? 
 ただし。HPのここにだけは言わせて貰います。

リピートは必要ありません???
 肩こり、腰痛、頭痛、腱症炎、胃痛等は1回目で治るか取れてしまうからです。どこに行っても治らなくてお困りの重症の方、いらしてみて下さい。初めにしっかりと気になるところをお伝え下さい。

と書いてあるそのすぐ下に

 ポイントサービス
 1施術で1P 10Pで1施術サービス。お一人様ご紹介で1施術サービス。
 (雨の日1Pサービス)

 これは、営業戦略上如何なものでしょうか?

 そう言えばここ数日、肩こりがひどくて目がシバシバするんですが、これも慣れないブログ更新でパソコンにへばり付いていることが原因じゃなく、気のせいな気がしてきました。明日にでも行ってみようかしら。


追記
 
 追記と言いつつ少々話が長堅くなりました。気、ニセ科学批判、武術に興味がない方はスルーして下さい。 

 
 読み直してみて、自分の立ち位置がハッキリしていないように思えたので追記でハッキリしようかと。批判するときに自分の立ち位置を表明するのは必要なことだと思っております。ほら、よく言うでしょう。「深淵を覗き込む者は、後ろから深淵に蹴り込まれないよう注意せよ」*3
 
 「気」に関しては、このエントリーの中核であるいわゆる「気功治療」の類は、効果が証明されていないと考えています。肯定的な実験結果にはエビデンスが不十分である、と言う評価も含め。
 早い話、気を注入しているヒマでマッサージした方がよっぽど健康になる、と言うのが私の見解です。
 
 ただ、ここが難しい所ですが、風水的な「気」や身体操作の説明体系としての「気」は否定していません。前者は、地勢を総合的に評価する際持ち出された説明体系、後者については、自覚的な身体知、とでも言いますか、感覚も加えた身体操作の説明体系、ではないかと理解しております。これらの概念に対しては、ある程度の有用さも認めています。*4
 しかし、実体的な、え〜と物理特性って言うの? を持つ存在であるとは思っていません。ですから、今エントリーにおいても批判対象は、認知症のくだりや血の速度・千島学説などいかにもニセ科学的な説明部分、ガソリンの例え・部屋に気が及ばないなど気を定量化した考え、それにアスファルトやハウス栽培のくだりの自然信仰に限定しました。治療行為そのものの批判は今回意識的に避けております。
 
 さて、上記の「気」に対する私の考えは、TAKESANが運営なさっているブログInterdisciplinaryと、その11月2日のエントリー気とはシステムであるに深く影響を受けております。

気というものは、心理的関係のあり方であったり複雑な知覚であったりを、複雑なシステムのまま丸ごと表そうとした概念、と考える事が出来ます。それは、○○という物質の働き、などという単純な論理に還元出来ない。

あるいは、まだ解明されていなかった現象に名前をつけてみたもの、とも言えるかも知れません。メカニズムがブラックボックスであるものの説明原理。だから、歴史的に、極めて多義的に用いられてきた。

 こうして引用してみると、影響、というよりまんま受け売りでしたね。
 
 治療そのものを批判しなかったからといって、私がこの治療効果を認めているとか、そう言うことはありません。今回、批判に踏み込まなかったのは、こちらに批判できるほどの材料がなかったことと、私の立ち位置があくまで「観察者」、面白い者があるよ〜と「紹介」する立場にあったからです。
 もし批判するなら、恐らく次のような理路を用いたでしょう。

  
 「気」で説明することと、「気」で何かをやる、出来る、と称することには大きな違いがある。前者は解釈で、必ずしも科学の優位性が保証されている訳ではない*5。科学が及ばない分野も馴染まない分野もあるし、今ほど情報網も科学そのものも発達していない昔なら、なおさら。
 しかし後者に対しては、明確なエビデンスを要求できる。また本当に「出来る」ならむしろ積極的に提出されるはずだ。科学的であると言うことほど効果を保証する言葉はない。でなければ、ニセ科学がここまで氾濫するはずもない。
 著しい治療効果が望めるというなら、きちんと対照群をとって、正しく統計操作を行い、権威のある医学雑誌に論文を提出すればいい。権威主義と言われようが、現状もっとも効果的な方法なのだから、それをやらない、できないというには何らかの理由があるはずだ。

 
 あらかじめ断っておきますが、上記の理路は一般論です。今回のエントリーとは直接関係ないので念のため。

 TAKESANのブログはニセ科学批判と武術を中心に据えながら、幅広いテーマと切り口(最近は動画を使ったコンテンツも多い)で読んでいてとても楽しいブログです。ですが……、残念なことに現在、ケロン軍による占領状態にあります
 TAKESANの安否が気遣われます。*6

*1:この名前は素敵だと思います

*2:効果がある病気の中に「喘息」が入っていなければ、名前も出さなかったと思います。

*3:確か、ヤスパースの言葉でしたか。ってここでボケたらギャグが回らないじゃん!

*4:拳児で説明すると、秘伝に気を持ち出すのはおk、でもそれで瀕死の拳児が治っちゃうのはどうよ? ということです。わかる人にはわかりやすい説明ではないかと。

*5:宗教、呪術、「真実」と解釈は何でもいいです。そもそも一般化できないものは科学と親和しません。例えば、めったに起こらないことが起きたとき、そこに必然性がなければ科学は「偶然」と片付けますが、当事者にとっては「奇跡」と感じるかもしれません。どちらの解釈が相応しいか、一概に言うことは出来ないと私は考えます

*6:3周年おめでとうございます