寒い世相

みすゞ飴

 いやぁ寒いッ! 今冬一番の冷え込みだそうで、本気で骨身にしみて寒いです寒いってんだろやんのかコラ! と思わず怒りが込み上げてきますがこの怒りはどこにぶつけたら良いんでしょうか。冬将軍? 根性の足りないCO2?
 さて、極個人的な事柄で恐縮なんですが、私、リンゴが食べられないんですね。味がイヤ、という訳ではなくて、例えばアップルパイなんかはおいしく頂けるんですが、生で食べるとなんか気分が悪くなるんです。「いやぁ、カゼインの分解酵素が生まれつき弱くて」とかそれっぽく説明すると、単なる偏食と思われないですみます。
 で、貰い物が重なって、今家にリンゴがたくさんあるんです。食べて消費する訳にもいかず持て余し気味だったんですが、そう言えば最近庭に鳥がくるなぁと。
 そんな訳で、枝に適当に切ったリンゴを刺しておいたんですが、これが結構、啄まれているんですよ。是非この機会にたっぷり栄養をとって、この寒空を乗り切って貰いたいものです。

 鳥に不景気は関係ないでしょうが、人間はそうも行きません。
TDK、派遣社員1千人削減 東北地区で

TDKは24日、国内の工場で働く派遣社員約1200人のうち1千人を、09年3月末にかけて順次削減することを明らかにした。電子部品の出荷が落ち込んでいるため。

 残念ながら、もはやこの手のニュースも目新しさはなくなってしまいました。キャノン・富士通も大幅削減を打ち出していますし、自動車産業の「派遣切り」も話題になりました。最近ではいすゞの対応が注目されています。
 いすゞ、中途解雇を撤回 対象は期間従業員のみ

いすゞ自動車の栃木、藤沢両工場で働く期間従業員計580人が26日付での中途解雇を通告された問題で、同社は24日までに、解雇の白紙撤回を決めた。非正社員の中途解雇が一斉に撤回されるのは珍しい。

 この記事が正しいと仮定して*1。このいすゞの対応にはいくつかツッコミ所があるように思います。

今回の解雇撤回の対象は直接雇用の期間従業員のみ。約820人の派遣社員に対する契約解除は変えないという。

 今日付の記事で、今回解雇される派遣労働者の何人か(の代理人)が「いすゞの責任を問う訴訟も、来年早々に起こしたい」と言っていますが、背景にはこの対応があるのではないでしょうか。分断工作、と揶揄されるゆえんです。

 同社は引き続き、合意のうえで26日付で契約を解約したいと期間従業員に打診しているが、従業員が拒めば本来の契約期間中は働ける。ただ、契約期間満了と同時に「雇い止め」となる公算が大きい。

 お情けで働かせて貰える、と。「契約期間中」であるなら、働けて当然だと思うのですが。そもそも、雇い止めでさえ正当な理由が必要なのに*2、契約期間中に一方的に契約を打ち切るんですから相当の理由が必要になります。でなければ不当労働行為そのものです。

合意の上での解約の条件について同社は、契約を打ち切った後でも元々の期間が満了するまでは寮を使えるようにしたり、満了までの期間に応じて賃金の一定額を支給したりすることなどを提示しているという。

 結構ですね。裏を返せば、派遣の人はとっとと寮から出て行け、と言うことですが。
 馘首を含めたリストラを否定するつもりも知識もないわたしですが、寮を追い出す必要性には疑問を感じてなりません。以下遠方からの手紙こちらのエントリーより引用します。

 年末のこの寒風の中に、多くの者を解雇だけでなく、解雇とほとんど同時に寮からも出て行けとは、随分な話である。

 当たり前のことだが、現場で働く労働者がいてこその企業というものだろう。島根県大分県の知事など、各地の行政の長は、この問題に対して、職員の一時採用だとか他業種への採用の呼びかけなど、いろいろな策を練っているようだ。それはむろんないよりましだろうが、まず一番にすべきことは、寮や社宅からの即時退去というような暴挙に抗議し、撤回させることではないだろうか。

 民間アパートのように、今の居住者を退去させたら、すぐ次の入居者を募集するというのならともかく、大量解雇ではそのような予定があるはずもなかろう。それなのに、なにを急いで、今この時期に大量のホームレスの発生が確実に予想されるようなことをする必要があるのだろうか。政府も地方の行政も、まずはそのような企業の処置に抗議すべきだろう。抗議しないということは、そのような処置を良しとし、瑕疵のない前例として認めることでもある。

 かつ7416さんの解雇に対するスタンスには共感します。今回、ガラにもなくこんなエントリーを書いているのは、かつ7416さんのエントリーに触発された部分が多いです*3。まあ、それは余談として。
 リストラ自体は仕方ないにしても、当然、それは残る全ての手段を尽くした後でなければなりません。また、不必要に過酷な合理化は本末転倒と言うべきでしょう。
 この寒空に寮を追い出す、ということが何を意味するか。千人近く馘首すれば、この不況です、その何パーセントかはホームレスにならざるを得ないでしょう。そして、その何パーセントかはこの冬を……今日なんかは実感しやすいですよね。
 寮から出て行け、と言うことはつまり、「死ね」と言ってるに等しい。
 
 当然、経営者様には理解されていることと思います。日本経団連御手洗冨士夫会長は今月上旬、定例会見でこう仰っておいでです。

正規雇用者を削減する動きが企業側に相次いでいることについて、「世界的な景気の落ち込みで各社が減産に追い込まれ、苦渋の選択として雇用調整が行われている」と述べた。

 「苦渋の選択」なのだそうです。もちろん、私はこの言葉を信じます。経営者は皆、身を切られるような思いをして雇用をカットしているのでしょう*4。ただ、そう言った話を聞くたびに思い出すのは次の台詞です。
 「なるほど、腕を切られれば痛いでしょう。……それで、切られた腕の方はどうなるんで?*5
 いずれにせよ、これだけは言えます。

 いすゞは「政府から自動車業界に対して努力要請があったことや、最近再就職が難しくなっていることなどを考慮した」と解雇撤回の理由を説明している。

 失敗は最速で改めるべきなので、撤回自体を批判するつもりはありません。むしろ賞賛されるべきでしょう。しかし同時に、まだ努力要請に応えるだけの余力があったこと、つまり解雇が切羽詰まった、企業存続に関わる最終手段ではなかったことが明らかになりました。
 今回、いすゞで解雇を決定した人は、決して「苦渋の選択」などしてはいません。もし、経営陣でそう言う者がいたら、そいつは大嘘つきです。


 プロフィールを見ていただければわかると思いますが、私は、リンゴの食えない非長野民ではありますが、長野銘菓みすゞ飴をこよなく愛する男です。
 せめてリンゴ味のみすゞ飴を口に運びつつ、いすゞの運命に思いを馳せた次第であります。

*1:今回、ニュース記事は全てasahi.comに掲載されていた「働けど貧困」特集より引用しました。やっぱりこの手のネタは朝日かな、と。

*2:「理由なき雇い止め無効」元嘱託職員が勝訴を参照。「客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められず、無効である」と言う判断でした。

*3:なお、後半は全く別の話題ですので一応ご参考までに。そちらも大変参考になりました。

*4:私は性善説を信奉していますので、人は「出来る範囲では」良心的であると信じております。

*5:多分銀英伝だと思うんですが。うろ覚えです