アリとキリギリス

 夏の間、アリさん達は、毎日せっせと食べ物を集めていました。今は食べ物がたくさんありますが、いずれ冬が来たら無くなってしまうことを知っていたからです。一方、キリギリスさんは、額に汗して働くアリさんを横目に、毎日歌ってばかりいました。
 やがて、冬が訪れました。
 アリさんが温かい巣の中で優雅にうぃーふぃっとを楽しんでいると、戸口を叩く音がします。キリギリスさんです。
 「アリさん、アリさん。どうか扉を開けて下さい。ここは寒くて死にそうです」
 「おやキリギリスさん。ってゆうかアンタ越冬出来ないはずなのにまだ生きてたんですね?」
 せっていの基本的な穴を指摘しつつ、アリさんは扉を開けてあげました。アリさん空気読め。
 「……ありさん。どうか私に、食事を恵んでくれませんか?」
 積み上げられた食料を眺めながら、キリギリスさんが弱々しく訴えます。
 アリさんは、ここぞと胸を張り、冷酷に言い放ちました。
 「夏の間歌っていたなら、冬には踊りなさい」

 
 キリギリスは、込み上げてくる歓喜を押さえることが出来なかった。アリが何か言っているようだが、そんなことはもはや関係ない。
 彼にとって重要な事実は二つ。
 うずたかく積み上げられた有り余る食料―その中には、肉食の彼でも食べられる物が十分含まれている―と、香しい芳香を放ち、ぷくぷくと密に溢れた、黒い肉塊。
 そして、自分とその獲物の間に、遮る物が何もないという事実。
 キリギリスはアリを突き飛ばし、後ろ手にゆっくりと、扉を閉めた。

 ……というネタから派遣村の話*1へ繋げようと思ったんですがなんか誤解されそうなんで止めときます。

*1:「偽善は無善よりまし」とか「福祉は社会全体に利益がある」とか当たり前の、義務教育終了してたら当然理解してなきゃおかしい事を知らずに発言している人が悪目立ちしてます。知らない間に厨房中学生のネット接続率がずいぶん上がったようですね。