声を繋げることは、声を上げることと同じくらい大切。

幻影随想様でとても興味深いエントリーが上がっていました。駆け出し研究者が科学のために立ち上がる方法のガイド

悪質なニセ科学の主張に遭遇して怒りを覚えるというのは、科学に関わるものであれば一度や二度は必ず遭遇するものである。
そういった情況に遭遇したときには、どのような行動を取ればよいのだろうか?
2007年、イギリスの若い科学者らがこの疑問に対し一つの答えを出した。

内容は『There goes the science bit...*1(科学をちょっと)副題:駆け出し研究者が科学のために立ち上がる方法のガイド』というレポートの紹介です。このレポート、一言で説明すると「英国の若手科学者がニセ科学製品の販売者に電凸仕掛ける」というもので、これがすごく面白い。対象になった商品は十一種。足裏シートや電磁波から身を守る系アクセ、グルタミン酸ナトリウムの排斥など比較的おなじみの物から、100以上の寄生虫を根絶させるハーブ(寄生虫の内訳は? とツッコんだらWikipedia寄生虫一覧を寄越した)、水に数滴垂らすとどんな汚い水も浄化・殺菌される"化学物質を含まない"謎な製品(ものすごく体に悪そう)、極めつけは

"Computer Clear"という名前のコンピュータープログラム。
34000種類のホメオパシーのレメディをバイオレゾナンスパターンという謎の波動に変えてモニターから発するソフトだと主張している。
(中略)
電磁波が人体に無害なものに変わったことを"証明"した方法というのが傑作で、ソフトの開発者は人の「オーラ」が見える人間で、ソフトの有無でモニター前の被験者のオーラが変化するのを確認したそうな。

なんて言う理解を拒絶するような商品まで、幅広く取り扱っています。何で信じるんだこんな物?
 中でも特に興味を引いたのが、英国のサンドイッチチェーン、プレタ・マンジェに対するツッコミ。

この店はオーガニック素材を使い添加物も一切なしというのが売りで、まあ早い話が有機天然真理教な店だ。科学者が聞いたら思わず失笑する売り文句を使っている。

 で、その売り文句とは 

We shun the obscure chemicals, additives and preservatives common to so much ‘prepared’ and ‘fast’ food.

英語は苦手*2なので、エキサイト翻訳に聞いてみました。

私たちはとてもたくさんの‘準備され'て‘速い'食物に共通の不鮮明な化学物質、添加物、および予防法を避けます。

「早い」「準備され」た食品――某ナルド系のファストフードを腐したんでしょうか。どうもそう読めます文責エキサイト翻訳ですが。
 で、問題の obscure chemicals ですが、結局「anything artificial that is not a natural thing」のことらしいです。再びエキサイト翻訳

自然なものでない何でも人工であることのもの

 ……え〜、普通に考えるなら「人が手を加えた物は全部ダメ!」と言う主張に思えるんですが、いくら何でもそんなことはないでしょうサンドイッチだってそうだし。
 英語には懲りたのでプレタ・マンジェ香港の中文サイトへ。おお、漢字だと何となく理解できる!
 程なく、こんな一文を発見。

不含防腐劑或添加劑。

決して防腐剤あるいは添加剤をくわえません――なるほど、具体的ですね。
 ざっと読んでみましたが、自然がどうのといったご託は無いみたいです。我們沒有供應油炸食品(揚げ物はやらないよ)という一文はありました*3が。どうでも良いですが、Posh Cheddar & Pickle「金牌車打芝士酸果醬」ってどんな喰いモンなんでしょうね? あと「HOT WRAP」は「熱烤卷」、「Hot Wrap Swedish Meatball Ragu」が「香草辣味肉丸卷」、同じ事言ってんでしょうが絶対漢字の方がうまそうです
 この辺り、ヒョッとしたら法律かなんかが絡んでいるのかもしれません。お国柄か単に見落としている可能性もあるって言うか高いですが。
 このようにお高くとまってやがる崇高な理想を掲げたプレタ・マンジェですが、どうもマクドナルド資本提携してるらしいです。日本進出の際はプレタとマクドで半分ずつの合資会社を設立してた模様。もう撤退しましたが。それとコチラによれば英国プレタにはコカコーラを置いていたようですが、

彼らが飲料から安息香酸ナトリウムを追放したことにツッコミを入れて"won’t eat products like sodium benzoate.”「安息香酸ナトリウムなんて絶対に口にしない」という回答を得るというGoodJobを連発している。

だそうですので当然、置いていたのはダイエットコークじゃないんでしょうね。飲み続けたらどっちの方が健康に悪いかは自明だと思いますが。
 プレタ・マンジェが他のチェーンとの差別化を図る際、天然素材に目を付けること自体は正当です。日本だとモスがそうですね、私も大好きです。しかし、そこで自然信仰に基づいた化学物質の排斥(言うまでもないと思いますが、塩も水も化学物質です)を持ち出すならそれは問題です。プレタの商品は高価なので有名らしいですが、その価格の何%かは、味や安全面からは本来不必要なこだわりの分かもしれませんね。もしそうなら、これは「ニセ科学が社会的なコストをかさ上げしている」実にわかりやすい好例となるでしょう。

 
 ところで。
 「幻影随想」の黒影さんは、こう仰っています。

このエントリを読んでくれた人に対して、同様にアクションを起こすことを期待する。

難しく考える必要は無い。
ニセ科学に対する批判を公開することだけが、ニセ科学に対するアクションではない。

ニセ科学批判の記事を読み、その記事への賛同の意見を表明するだけでもいい。
リンクとともに一言コメントを追加するだけでも、十分意味のある行動である。
ひょっとしたらそのリンクをたどって批判の存在を知ったことで、将来騙される危険を免れる人がいるかもしれないのだから。

 このお言葉は、非専門家でしかもヘタレな私には、非常に心強いものです。
 ニセ科学批判は得てして敷居が高い物と思われがちです。前提となる知識が必要だとか。専門的な知見が必要であるとか。訴訟に対する備えが要るとか。私もそう思っていました。
 しかし、それは程度問題なんです。方法を選ぶなら、誰でも、他ならぬ私でさえ、こんな私でさえニセ科学批判に貢献できる。このように。
 出来ることをやれば、いいんじゃないでしょうか。たいしたことは出来ないかもですが、やらないよりはマシなはずです。モチロン、言論である以上、批判ならなおのこと、責任は求められるでしょう。でも恐れることなんてありません。そこで求められるのは、当たり前の誠実さに過ぎないんですから。

*1:いくつか翻訳サイトを試してみましたがどいつもこいつも「科学ビットが行く」……いや、それが違うくらいはわかるから。と言う訳で、グーグル先生の「また、科学ビットのよ...」を採用することにします。しません。

*2:百点満点で8点とった経験あり。

*3:フライドポテトを意味する「薯片」という言葉はありましたが、名前がPOTATO CRISPSでしかも1パック100kcal未満だったのでノン・フライは本当っぽいです。