歴史修正主義は愛が足りない

 最近、次のエントリーが各所でやりだま話題に上がっています。negative_dialektik はてな村出張所:史上最大のタブーに挑戦すること、あるいは、今世紀最大の知的冒険

ホロコーストの検証が「人類史上最大のタブー」であればあるほど、「歴史的修正主義は今世紀最大の知的冒険である」という言葉に、「もっともな話だ」と頷きたくもなります。
(中略)
 研究に先立って、ある種の結論のみが選好されていたり、忌避されること自体が、学問的態度とは言えないでしょう。
 (ホロコースト正史派のみなさん、この考え方はオカシイですか?)
・たしかに「ホロコースト否認派」の主張の中には、トンデモも混じっているかも知れませんし、愚かな事実誤認もあるかもしれません。ですが、逆に、「正史派」の主張には、露ほどの誇張がない、と言い切ることが出来るのでしょうか。それは、現時点で、私には分からないので、自分の出来る範囲で勉強したい。

 一言で言うなら、悪しき相対化の典型ですね。「ホロコースト正史派」と「ホロコースト否認派」の間には検証に携わる人、物理的証拠、証言その他検証するにあたっての論拠に質・量格段の差があるのですが、その差を無視して両者を一律に並べることがどれだけ偏向した立ち位置か、この方には自覚がないようです。同列に並べることがすなわち、擁護に繋がります。オカシイですか?と問われれば、オカシイと答えざるを得ない。
 関連エントリー含め詳細に批判したい所なんですが、前述したようにこのエントリー、各所で様々な角度から既に批判されています。
 正しいことと間違ったことを一緒にしてゼロサムゲームを強いる時点で説得力ゼロ
 「羊」をめぐる冒険
 ホロコーストの基礎知識について
 上記はあくまで一例。まだ増えてます。
 今更私ごときが付け加える物もなさそうです、要するに出遅れたって事ですが。興味ある方は、リンクをご参照下さい。どれも丁寧に反論されています。特に最後のエントリーは、ホロコースト問題に対する簡素なまとめになっていて凄く参考になりました。
 

 引用先の方とはむしろタイプが異なると思いますが、歴史修正主義者に典型的に見られるもう一つのタイプの方に対して、ちょっと思うことがあります。

それは愛か

 私は、ニセ科学も嫌いですが歴史修正主義だって大嫌いです。
 ニセ科学に於いても、ID論に代表されますが本来科学とは縁もゆかりもない事柄、例えば信仰を広める(守る)為に科学をいわば利用しようとする事はあります。個人的には、科学に寄生しなければ存続できないような信仰に何の存在価値があるのか、素朴に疑問ですが。歴史修正主義においてはそれが顕著です。もちろん、単に権威を否定して見せたいだけのお調子者も一定数、無視できない数いますが、歴史修正主義活動の中核を担うのはやはり「愛国心」に基づいて自国の黒歴史を葬ろうとする自称愛国者達でしょう。何かというと工作員と決めつけ売国奴と罵るお馴染みの人工無能ネット右翼をもってして彼らの典型とするつもりはありませんが(最悪のモノを抽出して全体を語ってはいけませんからね)、歴史修正主義にコミットするような方達が愛国者であるとは私は思っていません。彼等の言動が自国の発展に何ら寄与せず、むしろ国益を大いに損ねている、という事実も理由の一つですが、それ以前に、私はそもそも彼等の「愛国心」そのものに懐疑的です。
 自称愛国者の方達は言います。美しい国、優秀な民族。比肩し得ない深い文化・強い精神・固い絆・高いモラル……。だから、私たちの国はすばらしい。だから、この素晴らしい民族の一員であることを誇りにすべきだ。美しいから。優秀だから。歴史が深いから。
 じゃあ、そうでなかったら?
 この国が、美しくなかったなら。彼等はこの国を愛するでしょうか。この民族が虐殺を行っていたら。彼等は、民族に誇りをもてるでしょうか。理由に基づいた愛や誇りは、理由がなくなれば宙ぶらりんです。
 だから、彼等は過ちを認めるわけにはいかない。個人に責任を帰せるなら、無理矢理にでもそうすれば国家・民族を、曲がりなりにも守ることができます。しかし、国家や軍が直接関与した組織的犯罪、虐殺となると話は違ってくる。
 歴史修正主義にコミットするとは、そういうことです。彼等はなんとしても「美しい国家」「優秀な誇るべき民族」を守らねばならない。それが、愛や誇りの理由だから、です。
 なんて薄っぺらい愛情!
 愛ってーのは、そういうモンじゃないでしょうよ。相手の全てを、良いところも悪いところも全部ひっくるめて受け止めてこその、愛だろ愛。欠点含めて愛せずして何が愛か。昔そんなひどいことしてたなんて、超ショックってか? 欠点見つけて萎えましたってか? 修行が足らんわ若造が!!
 私は、日本と言う国は特に好きでも何でもありません。むしろ嫌いかも?*1 でも、愛してます。理由なんてうまく説明できません。風土も文化も好きですが、それが全てではないですね。むろん、過去の所行、身の毛もよだつような悪魔の仕業を知っても、この気持ちは微塵も揺るぎません。過去に向き合い非道を謝罪する姿勢を見せると、すぐにやれ非国民の売国奴のと言い立てる輩がいますが*2、そういう人はそもそも愛の反対語が憎しみではなく無関心であることを理解していません。自分とは関係ない罪を謝罪なんてできないでしょう? 愛してるからこそ、自身のこととして受け止められる。愛しているから、我が事のように喜べるし、我が事のように悲しいんです。
 あなたは、この国がやらかしたことを背負えますか? 何も大げさに考えることはありません。悲しい、恥ずかしいと思えるなら、少なくとも私と同じくらいは愛国者です。
 「嘘だ! 飛影はそんなこと言わない!」なんてキモい青いこと言ってるガキは、論外なんですよ。

 ガキガキガキ ガキーッ!!
 本当にわかんないンですか!? 一応先輩だってニンゲンでしょ!?
 人間のお腹の一番底の方には
 全てを受け入れる強烈なチカラがかくされているのに

byタナベ(当時) 
プラネテス(2) (モーニングKC) [ 幸村誠 ]
……もっとも、どっちかと言えば私はロックスミス派。
 

*1:そもそも主権国家というモノが嫌いと言う話はある。21世紀にもなって、まーだ地球統一政府がないなんて。ガッカリにも程がある。

*2:外交は駆け引きなので、土下座外交という評価は一応あり。