フリーエネルギー商売に関する素朴な疑問。

 週末はまとまった時間が取れなくて不定期更新になってしまいましたが、野球の日韓五番勝負WBC決勝進出おめでとう! 個人的にはアメリカが負けてくれさえすれば満足なので今日の試合は大変面白かったです。もうわかったろ?小細工したって無駄なんだよ。次は正々堂々やろうじゃないか発祥国(米チームに罪はないです)。
 さて、ちょっと目を離した隙に新しい超効率発電機が評判を呼んでいるようです。各所で取り上げられていますが、いつもながら関連リンクがとても充実しているあぶすとらくつ様のエントリーあぶすとらくつ: 古くて新しいフリーエネルギーがコンパクトにまとまっていると思います。興味がお有りの方、是非最後のリンクまでお読み下さい。ちょっとすげえです。
 リンク引っ張っただけでは不親切ですね。
 私なりに今回の件を簡単に説明しますと、要するに毎日新聞が第一種永久機関を肯定的に紹介しちゃった、という事件です。どうも担当記者が彼岸の住民だったらしいですが、毎日新聞社科学リテラシーに対する疑問、ってゆうか内容チェックしとらんのかい疑惑が持ち上がっております。

永久機関ってなあに?

 一応、フリーエネルギーに関しても触れておきます。フリーエネルギーとは、要するにいくら汲んでも無くならないエネルギー、の事です。そのエネルギーを動力源にした装置をフリーエネルギー装置、あるいは永久機関と言います。フムン、ちょっと神林長平っぽいですね(?)。なぜ「永久」かはお解りでしょう。汲めども汲み尽くせないエネルギーが動力源なので、故障しない限り動き続けるからです。

永久機関
出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』永久機関(えいきゅうきかん)とは外部からエネルギーを受け取ることなく、仕事を行い続ける装置である。
(中略)
 第一種永久機関とは、外部から何も受け取ることなく、仕事を外部に取り出すことができる機関である。これは熱力学第一法則(エネルギー保存の法則と等価)に反した存在である。機関が仕事をするためには「外部から熱を受け取る」、「外部から仕事をなされる」のどちらかが必要で、それを望む形の仕事に変換するしかないが、第一種永久機関は何もエネルギー源の無いところからひとりでにエネルギーを発生させている。これは、エネルギーの増減が内部エネルギーの変化であるという、熱力学第一法則に第一種永久機関が逆らっていることを意味している。

 熱力学第一法則(エネルギー保存の法則と等価)なんて言うと難しく見えますが、要するに「無から有は作れない」という当たり前なお話です。永久機関においては「超効率」が謳われます。これはチョー効率が良い、のではなくて、入力より出力の方が大きい事を表しています。つまり、エネルギーをどっかその辺から汲み上げている訳ですね。何もない所「無」からエネルギーと言う「有」を汲み上げているのですから、熱力学の第一法則に反しています。
 今回話題になっている発電機は、ハッキリと超効率を謳っていますので(3キロワットを発電できているのに、モーターの消費電力は2・6ワットしかなかった――んだそうです)この第一種永久機関に当たります。

素朴な疑問――なんでカネ出すの?

 熱力学の第一法則なんて根本的な法則をひっくり返さなければ実現しない永久機関は、最大限贔屓目に見たとしても、実現しそうにありません。少なくとも現在までは、検証に耐え得る永久機関は存在しませんでした。それでいて、永久機関やフリーエネルギーマシーンを作った、という話は数多くあります。要するに、ほとんどは(と一応言っておきます)偽物だった訳ですが。
 偽物のかなりのパーセントが、詐欺に使われました。「もう少しで完成する、出資してくれ」と言うパターンが典型的です。中には完成した、と情報だけ流して株価を操作したと見られる素敵にクレバーな例もありますが、多くの場合出資者に実験を見せ、超効率を信用させてお金を引き出します。実験には当然タネも仕掛けもあるのですが、いかに出資者の目をかすめてエネルギーを装置に送り込むか、この辺が装置の笑いどころキモな部分です。例えば圧縮空気を利用して動かしたり、電源そのものを装置内部に隠匿したり。動かす(様に見える)タイヤの方にモーターを内蔵していた例もありました。問題の発電機はフライホイールを利用したようですが、これも典型的な手口の一つです。
 で、騙された出資者がお金を払う訳ですが……実を言うと、この出資者の行動が、イマイチ理解できないんですよ。
 もし永久機関が発明されれば、社会問題の多くはたちどころに解決するでしょう。宇宙進出も夢ではなくなります。当然、発明者は世界中の教科書に載ります。だから、制作者サイドのモチベーションは十分理解できます。協力者・支援者というのも、理解できます。
 でも、詐欺に引っかかるような大口出資者ってーのは、要するに永久機関そのものでお金を儲けたいんですよね? いや、それは構いませんよ私も儲けたいし。でも、そこで素朴な疑問があるんです。一体、どうやって出資金を回収する気なんでしょう?

「発明」については、第2条第1項において定義されている。つまり、「発明とは自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいう。
(中略)
下記に、「発明」に該当しないものの類型を示す。
1.1 「発明」に該当しないものの類型
以下の類型のものは、「自然法則を利用した技術的思想の創作」ではないから、「発明」に該当しない。
(中略)
 ⑶ 自然法則に反するもの
発明を特定するための事項の少なくとも一部に、熱力学第二法則などの自然法則に反する手段(例:いわゆる「永久機関」)があるときは、請求項に係る発明は「発明」に該当しない。

 特許庁のHPにあった関連資料より引用(pdf注意)。つまり、日本において、永久機関が特許を取ることはできないんです。なにせ、わざわざ括弧付けてまでハッキリ言及してますから。国によっても対応は違いますが、少なくとも日本において、特許を使って出資金を回収するのは不可能です。例え永久機関が実現しても、ですよ。
 私は経済はドが三つ付くくらい素人ですので、単に回収プランが思い描けないだけなのかもしれませんが。でも、素人考えで恐縮ですが、特許取れなきゃ最初の一台売った後、複製取られておしまいじゃないかなぁ。
 まあ、カモがこの事実を知らなければそこまでですが。でも、それなりの大金を回収プラン無しで出資するとも思えないし、特許のこんな基本的な部分を知らない、と言うのもニントモカントモすっきりしません。審査が「遅れている」事を既存の権威と絡めて陰謀論的に語っている方もいらっしゃいますが、それだと尚のこと回収は無理そうな。
 ホントに、どうやって回収なさるおつもりなんでしょうね?


追記 2009/03/24
 たくさんのブックマーク、ありがとうございます。個人的に、公益性がありそうなエントリーに頂いたブクマにはスターを献上する事にしてますので、どうぞ受け取って下さい。(まだの方、もうちょっとお待ち下さい)。このエントリーの公益性はかなり微妙ですが……。
 id:kilrey さんより、永久機関並びにタイムマシン(!?)の特許が存在することを教えて頂きました。ざっと調べてみましたが、永久機関の特許公開を確認しました。一例:永久磁石の反発力及び重力等を利用したエネルギー発生装置
 ただ、今のところ実際に特許を取得した例は確認できておりません。もうちょっと調べてからエントリーにしたいと思います。しました。→永久機関と特許
 情報提供ありがとうございました。タイムマシン……。