宇宙の海は誰の海

 追記あり 2009/03/02


 NATROMさんの所で、といってもブログではなく進化論と創造論についての第1掲示板にて、興味深い議論が進んでいます。因みに創造論とは今のところ関係ないようです。
 きっかけは「人間と動物との連続と飛躍」に関する次のような書き込み。

RE わずか1パーセント、されど 投稿者:雄 投稿日:2009年 1月10日(土)09時20分57秒

>遺伝子レベルの量的な違いと形質レベルの量的な違いとが比例関係で近似できるとする暗黙の前提がおかしい。
>そももそヒトとチンパンジーの形質レベルの違いは何%と考えるのですか?という点を何も考えてない。

いや、私自身は元々「形質レベルの違い」を全く問題にしていません。
世界には色々なサルたちがいて、動物園や図鑑で見るとそのユニークさと言うか奇抜さと言うか、多様性に驚きますが、それに比べれば人間とチンパンジーとの「形質」上の違いなど、逆に微々たるものに感じます。
(中略)
私が「誰が見てもあからさまに分かる巨大な違い」と述べたのは、こうした見た目の違いではなく、やっていること、つまりは行動様式、運動形体の違いです。
例を挙げればキリが無いのですが、宇宙空間に長期滞在すると言う行動は、生物学的な突然変異や自然淘汰で説明できることではなく、人間の社会的な知的集積による道具の発達によるものです。「生物の特殊性」の違いで説明できることでは無いと考えます。

 雄さんは、生物が進化による形質変化だけで宇宙へ進出することは不可能だと主張します。

 ともあれ私は、宇宙飛行士も含めて「生物」としての延長原理で宇宙滞在は絶対無理だと思っています。生物としてどんなに進化しても。
 そこには別の原理、つまり「地球環境の持ち込み」としての宇宙服や、人工衛星、宇宙ステーションをつくり、打ち上げることの出来た「社会的」な力、科学技術。これ抜きに宇宙への進出を語ることは出来ないと思っています。

 厳密に言うなら、その主張は誤りです。そもそも最初に宇宙に進出した生物は人間じゃないですし(まいらいふ あずあどっぐ)、今だって、少なくとも人間と共生関係にある菌達は宇宙に進出しています。あ、乳酸出ちゃった。かもすぞぉ! 自力で進出する必要は何もありません。人にやらせる方がむしろクレバーでしょう。
 とは言え、この指摘が難癖に近い事も自覚しております。問われているのは、進化による形質変化のみでの宇宙進出ですから、人間にフリーライド(って言うか拉致というか)した進出は本質を直撃していませんね。ですので

 細胞を持った生物がどう言う進化をしたら、宇宙空間に適応できるのか?、水は? 酸素は、或いは光合成の為の二酸化炭素は? 代謝は?(ウイルスが宇宙で活性を保てるかどうか、それは疑問ですが。いずれにしても生きた細胞が無い環境で、この問題も又無意味です)。

 しかし現実に人間は、道具を作って宇宙空間にまで足を延ばせる程にその行動様式(あくまでも行動です、身体の変化では有りません)を変化させてきました。
これは生物としての連続から、人間社会と言うステージへの、質的な飛躍としか私には思えません。

 これに答えることはよりスマートな返答となるでしょう。要するに、実際の生物の枠組みを外さずに宇宙に進出する――ん〜そうですね、行って帰ってくる*1事を目安にしておきましょう――事が可能である、なら良い訳です。チョット面白そうですね。
 取り敢えず、一宇宙速度を突破すること自体は何とかなりそうです。ほんとか?
 例えば共生細菌の力を借りて硝酸カリウム(硝石)を精製する植物があったらどうでしょう。その植物は竹のような構造をしていて、たまたま精製した硝石を土中から吸収した硫黄と混ぜ込む性質を有しています。その竹が良い感じに枯れた自己組織を練り込み*2つつ節の中に貯蔵する方向に進化したら、さてどうなるでしょうか。いやどうなるも何も、黒色火薬を詰め込んだ構造物と言うことなんですが。正に、体に良い天然素材100%固体ロケットですね。取り敢えず、この新生生物を「爆竹」と名付けましょう。
 爆竹は枝の一部を振動させて摩擦熱によって点火します。初期には破裂によって外敵から身を守り(?)また種子(ついでに他の植物)を広範囲に吹き飛ばしオマケに地ならしして生活圏を拡大させていたんですが、この戦略が当たって次第に大型・複雑化が進行。航続距離が向上し、山越えは愚か大海さえ越えて生息域を急速に拡大させていきます。その内、たまたま赤道付近に進出した種が複層構造化。下段ロケットを切り離し弾頭(種子)を二段階加速させることによって第一宇宙速度を超えることに成功しました。
 次の問題は、大気圏の突入・再突入時の熱。これも問題はありません。だから本当か?
 爆竹は表面をビッシリと断熱効果の高い中空構造のタイル状物質で覆っています。また絶えず水を循環させることによって熱の不均衡をおさえ、突入時には表皮から水を放出、ライデンフロスト現象をおこして全体の温度上昇を抑えます。
 最後に宇宙空間での生存法ですが。引用先でも指摘がありましたが、休眠状態の生物(クマムシね)の耐性はそりゃもうすごいので、この点は本来問題にはならないんですね。弾頭が十分大きかったら種子の保持は比較的簡単ですし。ただそれだけじゃ何ですので、爆竹は宇宙では共生菌の一つイオウ酸化細菌が産生する有機物に依存することにしましょう。余った硫黄の有効活用ということで。元ネタはコチラを参照。


 いや、何とかなるもんですね。


 私としてはこの問題

ヒトは確かに「特殊」ですが,
その特殊さは「生物としての特殊さ」の範囲を超えるものではないと考えています
もちろん,「人間の行動」のすべてが生物学で説明できるわけではないでしょう
しかし,それは社会や文化を持った動物一般に見られるであろう現象であって
ヒトの「特殊さ」も「程度問題」なのではないでしょうか?

 と仰るshinok30さんの意見に賛成です。他の方も例に挙げておられましたが、宇宙へ進出することが海から地上に進出したことに比べ著しく特殊とまでは言えないと思うんです。そもそも、人間にとっても宇宙は未だフロンティア。進出と胸を張って言える段階でもないですし。
 宇宙に進出することをもってして飛躍と受け取ることもモチロン可能で、その見方が有効な局面もあることと思います。ただ、何を持って飛躍とするかは結局定義次第。火を使うこと。文字を使うこと。道具を使うこと。いくらでも恣意的に設定できます。
 一方、私はだから雄さんは間違えているとも理解できないとも思わないんです。

品川の高層ビルの窓から見える、ひっきりなしの羽田空港への離着陸を眺めながら、そこに明らかな「飛躍」を私は感じざるを得ません。

 恐らく雄さんがア・プリオリに感じているその感性は、かなり共感できる。摩天楼を見て、中国のだだっ広い運河を見て、飛び交う飛行機を、地響きを立てて宇宙に突き刺さるロケットを見て、先人達がそして私たちが積み上げてきた、これからも積み上げていくだろう人類の英知の結晶を思う時、私は雄大な自然に対して感じるのと全く遜色ない畏怖の気持ちに打たれます。雄さんが認めているように、自然は広大で、多様です。でも、人類の成し遂げたことだって大したものですよ。
 恐らく爆竹は出現しないでしょう。実際、ロケット推進によって空を飛ぶ生き物は人間の他にはイカくらいなものですし。宇宙進出をもってして飛躍と断じる事には、十分な根拠が存在します。
 しかし、再度言いますが、それは設定次第で恣意的に変更し得ることなんです。同様に根拠を持った多くの見方の一つに過ぎない。であるなら、なぜこの見方にこだわるのか。こだわることにどんな利益があるのか。その利益は、共有できるものか。
 私には、やはり飛躍とまでは思えない。偉業ではあると思うんだけど。

繰り返しますが、それを「程度問題」だとする見解に対し、私の見解を押し付けるものでは有りません。

 こう言う雄さんの姿勢は、大変立派なものです。
 私も、見解を押し付けるものではありません。

追記 2009/01/26
 ぼくが考えたロケット植物案その2。今日思いついた。 
 地下茎に蓄えた爆薬を順々に起爆。固化・変形した葉で衝撃波を受け止め加速する「ダンデオライオン」


追記2 2009/01/30
 ミケさんの指摘により、雄さんの「程度問題」に対する誤解が顕わになって議論は事実上終焉してしまいました。雄さんは、大変残念なことに、ミケさんの質問(と言うより忠告)に正面から向かい合うことができなかったようです。
「私の見解を押し付けるものでは有りません。」
 これは、絶対的に正しい答えが無いことを自ら認める「宣言」であって、相手の正論から逃げ出す「都合の良い口実」であってはならない。私はそう思います。


追記3 2009/03/02
 驚くことに、掲示板ではまだ続いております。雄さんは色彩学まで持ち出してガンバっておられますが、有効な論点はもはや提出できないでしょう。線引きが恣意的に為されるという事を理解しない限り、そして理解したとしても、納得はできないでしょうね。

*1:人類の宇宙進出も、段階としてはまだそのレベルでしょう。国際宇宙ステーションなど恒久的な滞在基地があることにはありますが行き来はまだまだ単発的です。ソ連さえ安泰なら……

*2:硝石75%、硫黄10%、木炭15%な感じで