ネットと俺人称

朝日新聞*1の悪口を書けばアクセス数が上がる、とNATROM先生がその昔仰っていたので早速実行。
「淫」が常用漢字に仲間入りした理由

萎淫鬱怨苛牙潰傲挫塞斬恣嫉呪凄嘲妬貪罵蔑冥闇拉慄。

 呪文のような漢字群を見ていると、荒涼とした心象風景が広がってくる。まるで、今の世相が映し出されるかのように。どれも、常用漢字表に追加される予定の191字の中に入っている。逆に明るいイメージの漢字は、「錦」や「爽」「鶴」「瞳」「虹」くらいしか見あたらない。

 81年に当用漢字表から常用漢字表へ移行した時、こんなことはなかった。追加された95字の中に暗いイメージの漢字は少なく、むしろ「蛍」や「猫」「朴」「癒」「悠」など心なごむ字が目につく。

 一月前の記事を今更取り上げる所に悪意を感じて下さい。
 当時ちょっと話題になった記事なので覚えている方もいるかと思いますが、まあ一言で言って予断と偏見の塊のような記事です。「荒涼とした心象風景」とか言ってますが、そんな漢字を抽出しているヒマで中二病を治療した方が良いと思います。そもそも「」とか「」みたいな明らかに「暗いイメージ」でない漢字や傲・恣(最近この漢字大量に打ち込んだなぁ。恣意性で)など単独で取り出されてもイメージし難い漢字が入ってたり、拉麺の「拉」を無理矢理「拉致」に絡めたりと、かなり無茶な前提です。心なごむ字、として紹介された5字に関してもかなり違和感があります猫については完全に同意として。「蛍」と聞いて最初に想起する漢字は「」ですし、「」と大書してあったら私なんかは心なごむ所じゃないですね。この記事を書いた方は言葉の文脈依存性を何だと思ってらっしゃるんでしょう、ってそれはもういいか。

 昨年6月の小委員会で話題になったのが官能小説。前月に公表された追加字種の第1次候補案に、「濡(ぬ)」れる、「覗(のぞ)」く、「撫(な)」でる、「淫(みだ)」らといった漢字が入っていた。それが官能小説の影響ではないか、というのだ。

 日本新聞協会用語専門委員の金武伸弥さんは協会内で出た意見として、調査で使われた単行本の分野や作家にかなり偏りがあると指摘した。たしかに、540点の単行本の中に『柔肌ざかり』『インモラルマンション』といった題名の小説が26点ある。

 しかし、本気で厨房ですね。流通している一般書でその手の本が5%以下である根拠でも持ってらっしゃるんでしょうか。キオスクを見てもらったら解りますがその手の本、およびジャンルはかなり幅を効かせてますよ。第一「濡」は日常でも使うでしょうに。濡れるがエロ豨だと言うなら、急に雨に降られたらなんて表現すれば良いんです? 透けるならおkですか*2?
 しかも、司馬遼太郎の作品はその倍選択されているんですが、そっちの影響はサラッと流してます。常用漢字としてはむしろそっちの方が大きな問題だと思うのですが。もう最初から結論ありきだとしか思えません。

俺人称はネット独自の用法?

 さて本題。

191字の中で、採否が最も話題になったのが「俺(おれ)」。「公の場では使わないから入れなくてよい」という意見と「日常生活ではよく使うから入れるべきだ」という意見がぶつかった。採用の決め手の一つになったのがウェブサイトの調査だ。全表外漢字の中で「俺」の出現頻度は、書籍では5位だが、インターネットの世界では1位だった。

 「入れなくて良い」という意見について、当時ずいぶん批判的な反応がありました。私としては、それらの意見は十分に理解できますが、同時に常用漢字そのものが一種公的な色彩を帯びているのは確かなので、公的な場での使用頻度を基準に含めることにもある程度妥当性があるとも思っています。ジャーゴンを排除する機能も期待してのことですが。ま、あくまで「ある程度」なので「俺」の例のように極端に頻度の高い言葉に当てはめるほどの妥当性はないと思いますが。
 気になったのは、「インターネットの世界では1位だった」という部分。実を言うと、私の観測範囲で、俺人称の人は極端に少ないんですよ。
 唐突ですが、ここもインターネットです。当ブログご自慢のコメント陣の皆様で、俺人称の方は一人もいません*3。黒猫亭さん?あの方は開いて「オレ」人称ですよ?
 ざっと見た所、一番多いのは開いた「わたし」、次に「ぼく」ですかね。観測対象をアンテナに登録した93のサイトに広げても、俺人称は捨身成仁日記 炎と激情の豆知識ブログ!様のbuyobuyoさん位(見落としがあったらごめんなさい)。大体皆さん「私」もしくは「僕」人称でいらっしゃいます。
 日常生活で、オレと言う男性はかなり多くいらっしゃるでしょう。私も言いますし。でなければ「オレオレ詐欺」なんて言いませんしね*4。でも、書き言葉にする時に俺人称な方はまだまだ少数派だと結論して良いかと思います。ま、観測範囲がかなり偏っているとは思いますが。
 上記のアンテナは、まあ日記もありますが、多くは何らかの意見・主張がメインのサイトとなっています。その点で書籍的、と言っても良いかもしれません。
 私自身は私人称ですが、これは単にネタにした時のおかしみを計算してそうしているだけのことで、例えば内容を本当に日記にするなら迷わず「」もしくは「」ですが、心情吐露系の文章はやはり僕、それもできれば開いて「ぼく」の方がしっくりとは来ます*5。実際書くとなったら「麿」とかにしちゃいそうですが。
 はてな以外ではブログはちゃんと日記になっているようですので、インターネットの人称がより親しみやすい、もしくは実情に近いボク、オレになりやすい環境はあるでしょう。漢字で一人称を書くなら私・僕の次には俺が来るのは当然なので、使用頻度が上がるのも自然なことです。日記的な書籍はそうはないでしょうから、それで両者に差が付くのは当たり前。

現実の社会生活とかなり異なる言葉の使われ方がネット社会にはあることを、如実に示す数字だ。

 ですので、これは分析が非常に甘い、と言わざるを得ません。むしろ、書籍の側が社会生活と乖離している、と言う方がまだしも正確な分析なのではないでしょうか。
 儂はそう考えますじゃ。


追記 2009/03/01
ざにお大本営のざにおさん(パイパンP)が俺人称であることを確認しました。ネタが多い人は人称の特定が難しいです。俺の嫁、とか。罪滅ぼしに、次のエントリーでざにおさんの曲を大紹介します。

*1:昨今の流行を鑑みるに、今はむしろ産経新聞を叩いた方がいいかも

*2:私的にはおkです

*3:tittonさんは俺人称ですが。もうコメント陣じゃないですけど

*4:こないだ「お父さん……事故しちゃった」という電話が掛かってきた時はかなり本気で落ち込みました。

*5:ただ開いてぼく、だと読みにくいんですよね。ボクとカタカナにすると、それはそれで別の雰囲気が……