永久機関と特許

 追記 2009/03/27
 リンクが上手く機能してません。ネット初心者の私にはどうすることもできないので、引用で対処しました。なんでだろ?


 こないだエントリーでフリーエネルギー商売に関する素朴な疑問を表明させて頂きましたが、幸いな事に多くの方から情報や賞賛の声ご意見を頂きました。今回は応答を兼ねつつ、特許の方面より永久機関の問題に踏み込んで見ようと思います。

永久機関」は日本では特許が認められない。

 先ずは前回のおさらい。日本の特許法において「発明」とは次のように定義されています。

第2条 この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。

 「自然法則を利用した」とありますね。この定義により、自然法則に反していたり、関係ない物は発明と認められません。具体的に言うと(以下、特許庁HPの特許・実用新案審査基準:産業上利用することができる発明PDF注意 を要約)

 特許法2条1項における発明の定義に従い、特許法における「発明」は、「自然法則を利用した技術的思想の創作(のうち高度のもの)」でなければならない。
 ・ 上記定義に基づき、例えば以下のようなものは、特許法における「発明」に該当しないものとされている。
 (1)自然法則自体(例:エネルギー保存の法則
 (2)単なる発見であって創作でないもの(例:X線自体の発見)
 (3)自然法則に反するもの (例:永久機関)
 (4)人為的な取り決めなど自然法則を利用していないもの(例:ゲームのルール自体)
 (5)技能など技術的思想でないもの(例:フォークボールの投球方法)

 これらは、そもそも発明と認められません。当然、特許も取得できません。永久機関は、おもっきり名指しされてますね。

永久機関で特許を取る方法

 逆に言えば、ここをクリアできるなら特許が取れます。
 最も豪腕な方法は、自然法則そのものを書き換えてしまうことです。とにかく超効率を実現しちゃって、それが特に科学者連に広く認められれば既存の自然法則の方が書き換えられるので特許が認められる可能性があります。まあ、ぶっちゃけありえないですが。蛇足でしょうが一言付け加えておくなら、「広く認められる」という部分がキーになります。要するに、認められるまでは特許なんて取れねえよ、って事で、前回「超効率を例え実現しても特許は取れない」と書いたのはそう言う意味です。特許を取る前に認められなければいけないんですね。
 もう一つ、これは実際マッドサイエンティスト発明家が実践していることですが。あくまで既存の自然法則に反していないと言い張る、という方法があります。出願公開(後述します)された「発明」には、時に実に言い訳じみた文言を見かけることがあります。

発明の名称: 永久磁石の反発力及び重力等を利用したエネルギー発生装置
【課題】 古来より考案されてきた永久機関では、エネルギー保存の法則等により永久運動を行うことはなく、まして、エネルギーを生じさせるということは皆無であった。
【解決手段】本発明は、永久磁石同士により発生する磁力エネルギーの一部を運動エネルギーに変換し、この運動エネルギーを増幅、蓄積し、それを短時間で消費させることによって、再度磁力エネルギーに変換させ様というものであって、これを永久に繰り返すことにより、これら異なるエネルギーの差を外部へ供給することができる。従って、この装置はエネルギー保存の法則等に抵触することはなく、古来より言われている永久機関とは異なる。

 強調は私。言い張ってますね。原理はどうでも、超効率が達成されれば第一種永久機関なのですが。
 他にも「永久機関ではないが、車軸等の寿命までを有効に活用する――」「永久機関」「あえて永久機関は目指さない」等々。因みに、最後のはこんな発明。

http://www2.ipdl.inpit.go.jp/begin/BE_DETAIL_MAIN.cgi?sType=0&sMenu=1&sBpos=1&sPos=6&sFile=TimeDir_20/mainstr1238067458237.mst&sTime=1238068572 発明の名称: 気泡を用いた発電装置
【課題】化石燃料を使用しない発電方法として、気泡の浮力を用いた発電装置はあった。しかし気泡を安定的に継続して注入でき、かつ実用化できる様なものは無かった。
【解決手段】気泡の取込は水槽底の水車で水と空気を置換することで行う。また効率を上げるため、水車で空気を圧縮する、気泡の入ったパケットを可能な限り長く移動させる、等の機能を備えた装置とする。さらに、気泡と液体の様々な自然現象を利用して、効率を上げた装置とする。あえて永久機関は目指さない

 強調はみつどん。この発明、要するに水槽の水で水車を回して、上がってくる泡で発電機を回す、と言うモノらしいです。確かに永久機関でも何でもないですが、どうして素直に水車で発電しないのかかなり疑問です。
 上記は正直、失敗している例ですが、そこは上手いことやれば審査官が誤魔化される可能性は少なからずあります。
 sci.skeptic FAQ (日本語版)に、このような項目がありました。sci.skeptic FAQ Strange Machines8.5: でも、特許を取ったぞ!

それで?  特許局は (動作する模型を要求しても) 特許が「永久機関」に関するものであることは保証していない。でも、もし君が永久機関を「真空エネルギー装置」と呼び、「未知のエネルギー源からエネルギーを得ている」と主張すれば、君は特許を取ることができるかもしれない。特許局は発明品が動作するかどうかを審査するのではなくて、以前に発明されたものかどうかを審査するのである。装置に「永久運動」と命名することを禁止しているのは特例である。というのは、このような命名が詐欺師により永久機関の承認として引用されることを、特許審査官はが嫌っているからである。

 永久機関であることを上手く誤魔化せば、特許が降りる可能性は常にあります。もっとも、誤魔化さなきゃ取れない訳で、私の「なんで投資するかな?」という疑問は解消されないのですが。 

出願公開ってなに?

 さてさて、皆様お立ち会い。先ずはだまってhttp://www2.ipdl.inpit.go.jp/begin/BE_DETAIL_MAIN.cgi?sType=0&sMenu=1&sBpos=1&sPos=1&sFile=TimeDir_21/mainstr1238071643306.mst&sTime=0 コチラをご覧下さい。

【要約】
限られたものではあるが、有人飛行等による、惑星間移動をも可能とし、地球上に於いて、空間を、ある程度変幻自在に移動する事を可能とし、長期に亙って、上空での浮遊を可能とする、即ち、未確認飛行物体(UFO)に関する技術等は、現代の物理学(力学体系)に於いて、解明するには、課題が山積していた。構成としては、単極直流機の特性を活用したとも言える、レミングの左手の法則とフレミングの右手の法則による相対的増幅を基に、反復増幅等をも含め、永久機関としての構成を完成し、必要可能な直流電流、交流電流等の活用を可能とし、制御装置の伴った、自転加速機能を兼ね揃えた、地球上に於いて、右回転等による、斥力発生装置等の活用、即ち、反発力としての浮力の活用と、隣接した斥力発生装置等の活用による推進装置(強烈なねじれた場の破れを活用する)、及び、電力の活用による、電磁推進装置(アーク放電加熱方式等によるジェット推進装置等、及び、無稼働式電磁推進装置等を含め)等を構成の柱として、総合的に構成、課題を解決し、利用可能として成る、宇宙戦艦空母、に関する発明である

 どうでしたか。地球上に於いて空間をある程度変幻自在に移動する事を可能とし、長期に亙って上空での浮遊を可能とする。ロマンに溢れた素晴らしい発明ですね。え?何じゃこりゃ? 宇宙戦艦空母の出願公開ですが、何か?
 特許電子図書館ではネットから各種特許の情報が検索できます。さて、ここで「永久機関」と検索をかけるとどうなると思いますか? 結論から言うと、五十件以上がヒットしてしまいます(永久磁石大人気)。しかも、上記の宇宙戦艦空母を始め、多くは堂々と「発明の名称:永久機関」と名乗っています。清々しいですね。
 永久機関は特許を取れません。ですので、この裏には勿論からくりがあります。
 当たり前ですが発明をしただけでは特許は貰えません。特許庁に対して発明を出願し、審査を経なければなりませんが、実は、この審査には二種類あるのです。特許権を取得するには - ビジネススタイル - nikkei BPnet:第21回 特許権を取得するにはより。

出願書類が特許庁に提出されますと、特許庁長官は方式審査を行います。方式審査というのは、願書や明細書などの出願書類が特許法などに定める手続や形式を満たしているかどうかの審査のことです。 特許の登録要件を備えているかどうかの実質的な審査を実体審査といいます。出願の実体審査は審査請求があった出願について行ないます。(中略)審査請求期間は出願日から3年以内です。

 お解りでしょうか。出願された書類は、先ずその書式だけが審査され、続いて審査請求があった出願についてのみ実体審査、つまり発明の内容がそこで初めて審査されるのです。つまり、出願書類と審査請求、両方提出しないと特許は取れません。
 さて。特許には出願公開制度があります。

出願公開とは、出願日から1年6カ月を経過したときに、出願内容を特許公報に掲載することにより公表する制度です。この公開制度は、出願を一定の期間経過後に一律に公開し、他人の重複研究や重複出願を防止することを目的にしています。

 内容の如何に関わらず、出願されれば1年6カ月後特許公報に掲載され、データベースに追加されます。この時点では審査請求期間はまだ終了していませんし、実体審査には場合によっては数年掛かることも珍しくありません。つまり、形式審査さえ通過すれば、それがどんな内容でも特許出願は公開されます。例えば、こんな内容でも

http://www2.ipdl.inpit.go.jp/begin/BE_DETAIL_MAIN.cgi?sType=0&sMenu=1&sBpos=1&sPos=12&sFile=TimeDir_22/mainstr1238074928000.mst&sTime=0 一般相対性理論応用加速度運動利用重力制御タイムマシン
【課題】従来のタイムマシン理論のワームホールは現代科学水準では造れずタイムトラベルは不可能だった。
【解決手段】一般相対性理論を応用した重力を加速度運動で作り出し、その重力空間では時間の進み方が遅れるのを利用して重力の強弱で未来過去の特定時間を調節し重力空間から一般空間に出ると未来、一般空間から重力空間に入ると過去に着くことを可能とした。

 早い話、遠心分離器に人間をぶち込むというマシンです。似たようなことを言ってた神父がいましたね。
 重要な点は、例え最終的に実体審査を通らなくても、出願公開はされ続けるという事です。じっさい、このエントリーで取り上げた「発明」は全て出願公開されたもので、言うまでもないですが、通常審査による拒絶か未審査請求によるみなし取下といずれも特許の取得には至っていません。でも、未審査状況はともかく、出願が拒絶されても未だこうしてネットで確認できます。
 まとめます。特許を取得するまでにはかなり複雑な過程が必要となります。しかし、出願だけなら書式さえ揃えれば誰にも可能です。実証データや実働モデルを付ける必要さえありません(宇宙戦艦空母を思い出して下さい)。また、内容も何でもアリです。当然ですね、内容の審査は一切してないんですから。
 出願公開と特許取得の間には、何の関係もありません。

騙されないために

 実を言うと、この辺りに出資者を騙す、いやハメる、いやいやその気にさせるポイントがあるような気がします。
 こんな事を言うのは何ですが、永久機関に投資しようなんて間抜けな奇特な方は科学リテラシーが低いあまり科学をご存じない、細部に拘らない大らかな人だと思ってもいいでしょう。それでも、虎の子のゲンナマを渡すとなればそれなりに調べるはず、と言うのが私の疑念の中核なんですが、その「それなり」というのが形式審査を通れば貰える特許出願番号を確認する、といった行動で満足してしまうレベルだったら。もちろん、出願公開には申請状況はじめ詳しい情報が添付されています出願情報詳細フレームまで読めば。でも、公開特許公報に載っている事を持って満足してしまう人には、そこに書いてある情報は全く無力です。たとえ申請が拒絶された出願でも、そう言う人を説得することは可能でしょう。
 まして、審査請求期間には余裕が3年間ありますし、実体審査にも数年単位で時間が掛かります。これを利用して、例えば「画期的な発明に担当者はすぐに出願を認めたが、その後圧力が掛かって特許認定に時間が掛かっている。結果的に棄却された。陰謀だ」といったストーリーを作ることは実に簡単です。出願の直後から付き合わせれば、広報にはすぐに掲載されてインターネットで全世界に配信されたが、なかなか特許がおりない、という焦りを共有させることもできるでしょう。んで、仕方ないからドイツで特許取ろう、とか、公開実験でアピールしよう、とか持ちかけておゼゼを毟り取る、と。巧妙ですね(?)
 

 第一種永久機関を作った、質量保存の法則を破った、という事が一体何を意味するか。そのことに気づけない方を説得するのはなかなか難しいかもしれません。ただ、フリーエネルギーの歴史は詐欺の歴史。今まで沢山の沢山のフリーエネルギーマシーンが登場しては消えていきました。そしてこれまた沢山の沢山のひとが騙されています。
 大切なことなのでもう一回言いましょう。
 永久機関で特許は取れません
 特許出願公開と特許取得はなんの関係もありません
 例え特許を取ったとしても。実働しなければお金にはなりません
 

 マッドサイエンティストにはロマンがありますが、詐欺師はロマンを食い物にします。非科学的なのはどちらも同じですが、本気で宇宙戦艦空母やタイムマシンを造ろうとしている人は、違う意味で私たちの世界を豊かにしていると私は思っています。
 だからこそ。詐欺師は許せません。


 前のエントリーでは多くの方に色々と教えて頂きました。皆様サンキュー!
 特にkilreyさんとハブハンさんから教えて頂いた情報に、このエントリーは多くを負っています。改めてお礼申し上げます。どうもありがと。