「血液型性格判断」批判 後編:血液型性格判断は差別

 「血液型性格判断」批判 前編:ニセ科学批判の練習問題の続きです。昨日のエントリーには沢山の好意的な反響を頂き、はてなもまだ捨てたものではないな恐縮しきりです。皆様ありがとうございます。苦労した甲斐がありました。
 今回は後編として、何故血液型性格判断は批判されなければならないのか、批判されるべき問題点とはなにか、「ニセ科学」と「倫理」二つの視点から明らかにしたいと思います。なお、これはあるいは傲慢かもしれない個人的な要望なのですが、今回のエントリーは肯定派の方にこそ読んで頂きたい。別に、説得しようとかそんなおこがましい事は考えていません。ただ、血液型で性格を判断することが、その意図にかかわらずどんな意味を持つのか、ちょっとだけ足を止めて考えて頂きたいだけです。

ニセ科学としての「血液型性格判断

 毎度お馴染みニセ科学批判まとめ %作成中によりますと、ニセ科学とは

科学ではないのに科学を装っているもの。
(中略)
「科学ではないもの」とは?
最初に「科学ではないもの(広義の非科学)」を列挙する。

1. 反証不可能でポパー的に見て科学ではないもの (ポパー的非科学)
2. 反証可能なだけではなく、すでに反証されてしまっているもの (間違った科学)
3. 反証可能で直接には反証されていないが、他の科学知識と整合しないので反証する必要のないもの(間違った仮説)
4. 反証可能だが実証も反証もされていないもの(未科学

 血液型性格判断の場合、1・3でないことは前回触れました。相関関係がある、という仮説は何度も検証された結果破棄されましたので、立派に反証されています。ですので結論としては2「間違った科学」に当たります。
 と言っても、肯定派の方は納得できないでしょうね。前回、反証を受け入れないなら、それは心理学か心理学者(学会)の方が間違っていると主張する事になる、と論じましたが、逆に言うならその立場に立たれるなら「間違った科学」では無くなるでしょう。そう言うといかにも過激に聞こえますが、要するに「今の心理学の手法では判定できない」という主張がこれに当たります。判定できないから否定できない。なるほど、一理ありますね証明責任さえ考えなければ。まあ百万歩ほど譲って判定できないし証明責任もないとしましょう。それでも、やはり血液型性格判断は科学ではあり得ません。その場合、4「未科学」として扱われます。なにしろ判定する手段がないのですから。そして当然ながら、科学的な根拠がない事に代わりはありません。
 次に「科学を装う」の部分ですが、血液型性格判断はそもそも論文として提出され反証された説に依っているので、端的にニセ科学です。また、統計や実験と言った科学の手続きや検証・実証・心理テスト等の科学的な用語も血液型性格判断においては頻出します。いずれも科学を装う行為であると断じて良いでしょう。この辺りは批判的思考のための「血液型性格判断」(pdf注意)に詳しいです。
 結論、血液型性格判断ニセ科学
 ニセ科学だと何故批判されるのか、についてはここでは触れません。毎度お馴染みニセ科学批判まとめ %作成中の該当項目を参照して下さい。個人的には「ニセだから」で批判の根拠としては十分だと考えます。科学の品質を維持する為科学や社会が払っているコストを考えれば、信用を落としかねないフリーライダーは非難されて当然でしょう。
 

 と、これで済めば話は簡単なんですが。
 血液型性格判断が一種の占いとして受容されていることが、「科学を装う」部分を微妙なものにしています。実際、否定派が受ける反論(?)で一番多いのが「根拠は知らんけど、実際当たってるし」「別に信じてないけど?軽い話のタネだよ」果ては「たかが占いじゃん、何をそんなにムキになってるの?*1
 こう言った一件中立的な反論(?)に、ニセ科学の文脈だけで対処するのはかなり困難です。「血液型性格判断はなぜ当たっているかように見えるか」については心理学的分析が行われてますが(上記引用pdfをご覧下さい。3ページ目に具体例があります。)、根拠は知らん、と言う人にどこまで通じるかいささか心許ないですね。
 「道を歩きやすいようにゴミを拾う」という観点から、非合理な姿勢そのものを批判することも可能です。迷信を信じない自由は普通、信じる自由に優先しますから、我が物顔で活動されては困ります。迷信だから出しゃばるな、と言うことですね。これはこれで見識ですし、大いに共感する所です。
 ただ、これは合理性の価値や迷信を信じない自由について前提が共有されてないと届かない理路ではあります。「反論」に届くかどうかはやはり、微妙ですね。
 そこで。彼らの反論に対し、ニセ科学とは別の、迷信かどうかでさえ関係ない視点から再反論してみます。「倫理的な側面」からの血液型性格判断批判です。

血液型性格判断は人道に悖る――例え正しかったとしても。

 Q「何をそんなにムキになってるの?」
 A 二つ、理由があります。
 

 一つ。それが、人道に悖る「差別」だからです。
 二つ。その差別が、実際に現実に行われているからです。

現代の日本で、血液型性格関連説は、日常の話題や占いや相性判断を飛び越して、社会的に「利用」されるまでに至ったのです。それは「正しく」見えるんだから、使ったっていいだろうというわけです。生まれつきで、後天的努力で変えることのできない特性に基づきさまざまな利用が行われています。

 「血液型-性格関連説について:血液型性格関連説」の問題点より。強調も原文。
 「後天的努力で変えることのできない特性」を人は多く持っています。人種・性別・身長・容貌それらの自分ではどうしようもないことを理由に人を区別することを、日本語で「差別」と言います。
 「あいつはA型だから神経質」「B型は自分勝手」これらは自分では変えようもない特性で人を判断しているので、差別です。え? でも当たってる? 何を言ってるんですか。血液型性格判断例え正しかろうとも、差別は差別ですよ。

「お前は△型だからこういうやつだ」という決めつけを見たら、あれあれ、そこまでやっていいのかな、とちょっと立ち止まって思うくらいの余裕は、あってもいいのではないでしょうか。これは、血液型と性格の間に関係があろうがなかろうが、おかしいのです。ちょっと立ち止まって考えてもらうために、心理学者は警鐘を鳴らし続け、そのためにこのページも存在するのです。なぜならこれは、人間をよりよく理解するというよりも、むしろそれを放棄し生まれつきの特性で他人について判断するという手抜き行為であり、○○人はこういう連中だからなどと論じることと、やっている論理の根は全く同じものだからです。

 引用・強調は一つ上と同じ。
 黒人より白人の方が器用だ、と言う研究結果があったとします。それを理由に、白人だけを採用するメーカーがあったとしたら――それは許されますか?
 男性より女性の方が育児に長けてる、という事が実証されたとします。だから男性は育児をしてはならない――これは正しいですか?
 身長が高い人ほど自己中心的な傾向がある、と言う報告がもたらされたとします。だから、身長180cm以上の人とは付き合わない――この態度を、あなたはどう思いますか?
 よりクリティカルな問題もありますね。血液型性格判断は、明らかに少数派を差別しています。日本で比率の低いB・AB型は「自己中心的」「二重人格」と悪し様に評価されています。
 さて、肯定派の皆様。どうして、そんな劣悪なB型因子をいつまでも野放しにしてるんですか? 断種してしまえば、世の中が良くなる。違いますか?
 勿論、違いますね。理由は簡単です。それが人道に悖るから、です。それが差別だから、です。属性だけで、その人の全てを否定しているから、やってはいけないのです。もう一度言います。例え実証されていようが、差別は差別です
 そしてこの差別が、現在も実際に行われています。就職で、研修で、選手の選考で、教育現場でこの差別が大手を振ってまかり通ってます。
 「血液型と性格が関連している」という差別 (2004.08.06 Friday) いんちき心理学講義
 面接で血液型を訊かれた人募集
 上記リンクは一例に過ぎません。調べれば、まだまだ沢山の血ハラ、血液型による差別の実例があるでしょう。
 

練習問題の答え 私の結論

 血液型性格判断の最大の問題は、人を自分ではどうしようもないことを理由に、4類型に押し込める所にあります。「×型だから」と言う決めつけは、血液型以外のその人の全人格を斟酌していません。個人を見ずに、血を見ているのです。
 

 プロフィール欄に、私はこう書きました。「初対面から偏見を抱く事に、どんなメリットがあるんですか?」血液型性格判断とは、つまりはそう言うモノです。それが正しかろうが間違っていようが、私の態度は変わりません。それで得られるのは偏見だ、と。
 

 血液型と性格の間に強い相関関係はありません。
 血液型性格判断は、検証され破棄された仮説に則った、ニセ科学です。
 血液型性格判断は、迷信です。
 

 そして、上記の全てが間違っていたとしても、血液型性格判断は差別なので批判されるべきです。
 これが、私の答えです。
 

追記 
 もっと血液型性格判断について調べてみよう、と思われた方に。今回参考にさせて頂いたサイト、参考になりそうなサイトをここに記しておきます。
 

 あぶすとらくつ:ニセ科学ツアー_血液型性格判断
 Interdisciplinary:良いエントリー。フォルダ開放
  上の二つはそれ自体素晴らしく良エントリーですが、重ねて豊富なリンクが非常に参考になります。


 血液型-性格関連説について
 多方面から血液型性格判断の問題点を考証してます。少々古いですが、簡潔にまとまっていて読みやすいです。統計学についての項目は必見!
 

 遺伝学からみた血液型性格判断
 NATROM先生の論考。特に「多重検定によるタイプ1エラー」の項目は非常に参考になります。日記の方の関連エントリーも、どれも面白いです。


 血液型優生学
 血液型性格判断を流行らせた元凶下地をつくった能見父子の著作をケチョンケチョンに熱く批判するサイト。同所の「B型によるB型のためのB型の研究」も(ネタとして)お薦めです。
 


 ありがとうございます。当ブログの半分は、優しさでできてます余所様の。
 これからもよろしくお願いします。

*1:信じて無いのにネタにする人ってホントにいるの?でこの点をTAKESANが取り上げています。率直に言ってその通りかと。