胎児性アルコール症候群(Fetal Alcohol Syndrome: FAS)について

 昨日予告した「胎児性アルコール症候群」略称FASについて。なお、最初に断っておきますが、私は非医療従事者でしかも科学的な専門教育を一切受けていません。統計についても怪しいものです。私が単なる無責任な素人である事を、最後まで忘れないで下さい。
 私は専門家による判断、専門知識、疫学その他の専門的手法の全てに敬意を払っております。もしこれを読んでいるあなたがFASについて、本気で切実に知りたいのであるなら、専門の産婦人科医に質問してください。

胎児性アルコール症候群とは

 食品安全委員会によって、FASについてのファクトシート(科学的知見に基づく概要書)が作成・公表されています。少々見つけにくいですが、トップページよりトピックス―ファクトシートへとお進み下さい。以下、特に断り無い場合ここからの引用です。
妊婦のアルコール飲料の摂取による胎児への影響PDF注意(平成17年7月5日更新)

胎児性アルコール症候群(FAS)とは?
 妊娠中にアルコールを摂取した女性から生まれた子供に、
  ・特徴的な顔貌(小さな目、薄い唇など)
  ・発育の遅れ
  ・中枢神経系の障害(学習、記憶、注意力の持続、コミュニケーション、視覚・聴覚の障害など)
 などの先天異常が見られる場合があり、これを「胎児性アルコール症候群(FAS)」と呼びます。
 また、胎児性アルコール症候群(FAS)の基準のすべてを満たさない場合であっても、
  ・アルコール関連神経発達障害(Alcohol-related neurodevelopmental disorder:ARND)→行動や認知の異常
  ・アルコール関連先天異常(Alcohol-related birth defects:ARBD)→心臓、腎臓、骨、聴覚の障害
 といった症状が見られる場合があります。
 これらのアルコールに起因する胎児の障害を総称して、「胎児性アルコール・スペクトラム障害(Fetal alcohol spectrum disorders:FASD)」と呼びます。

 「妊娠中」の飲酒による先天異常であることに注意してください。と言うのは、FASの研究がアルコール中毒の女性に対する調査から始まった、という来歴があるからです。

初めて医学的な報告がなされたのは1899年のことです。Dr.William Sullivanが女性のアルコール中毒者120名を対象にした調査を行い、アルコール中毒の女性から生まれた乳児の死亡率が、アルコールを摂取しなかった28人の女性から生まれた乳児の死亡率よりも高かったことを報告しています。さらに1968年には、Dr.Paul Lemoineが胎児期のアルコール暴露の影響とみられる特徴的な顔貌その他の症候群のある127人の子供について報告しています

 上記の研究と、現在判明している、そしてここで取り扱っているFASの概念とは直接結びつきません。ここを混同して「定期的に飲酒していた場合、受胎前の生殖細胞が破損されている可能性があります」などとアルコール依存症や妊娠前の飲酒をFASの原因として説明している人がかなり多く見られます。アルコール中毒や依存症と胎児、子供の関係に関する研究は幅広く行われていますが、繰り返しますが、FASとは直接関係ありません。

機序とリスクに関する科学的知見

では、なぜFASが現れるのでしょうか。

妊婦が摂取したアルコールは胎盤を通じて胎児の体に入りますが、胎児(又は胎児となる前の胎芽の段階)にそのアルコールがどのように作用してFASを引き起すのかについては、胎児の発育過程そのものに不明な点が多いことや、妊娠中に飲酒した時期、飲酒の頻度や飲酒量、母親と胎児の健康状態や遺伝的素因など様々な要因が関係することから十分に解明されていません。
しかし、最近の研究から、アルコールの代謝に伴って発生する物質が胎児の細胞を傷つけたり、神経細胞の正常な発育に必要ないくつかの物質の作用をアルコールが阻害してしまう可能性など、様々な原因が複雑に絡み合いながらFASの発生に関与しているものと考えられています。

 機序は完全には解明されていません。このことは後のリスク評価にも繋がってきます。
 ここで重要なのは、解明されてはいないが、アルコール(エタノール)の直接作用が主な原因と考えられている、ということです。より直截に「胎児が胎盤を通じてアルコールに被曝」「母から無理やり飲酒を強制されている」と表現しているお医者様もいらっしゃいました。詳しくはコチラをご覧下さい。妊婦のアルコール代謝や依存症対策など興味深い情報があります。
 検索していて知ったんですが、この件に関して一番多い関心は「妊娠中ですが、どの程度なら飲んでも大丈夫ですか」と言うものの様です。2番目は「飲んじゃったけど大丈夫でしょうか」。
 これらの質問に対する私の答えは、いずれも「さあ?」です。なぜなら、

アルコールによる胎児の障害は妊娠中であれば何時でも起きる可能性があります。また妊娠中に飲酒しても安全なアルコールの量は明らかにされておらず、妊娠中の飲酒はその量や時期に関わらず胎児に悪影響を与える恐れがあるとされています。

 「様々な原因が複雑に絡み合いながらFASの発生に関与している」為、飲酒の影響を定量的に評価することは(恐らく)例え専門家であっても困難なようです。まして、初見の妊婦さんに対して責任もって断言できるだけの情報など私は持ちません。

発生率

 とは言え。幸い、「多分、大丈夫」と言うことはできそうです。

米国疾病管理センター(CDC)の調査によると、米国における胎児性アルコール症候群(FAS)の発生率は0.2〜2.0人/1000人(出生人数)程度と見られており、ARND・ARBDについてはFASの約3倍程度の発生率と考えられています。
(中略)
フランス国立衛生医学研究所(INSERM)の報告によると、フランスにおけるFASの発生率は0.5〜3.0人/1000人と推定されています。

 発生率は全体で多くとも0.3%程度、と。なお米国の妊娠中に1度でも飲酒したことのある女性の割合は、10.1%だそうなので、単純に十倍しても3%以下、です。あなたのお子様がFASとなる確率は相当に低い、と言うことはできそうです。
 勿論、低かろうと可能性は可能性なので、断言はできませんよ。
 

治療法・予防法

 治療法については否定的な情報がネットには散見されます。ですが、繰り返しますが、私は専門家ではありません。気になる方は担当の産婦人科医か小児医へご相談下さい。医学の進歩は目覚ましいので、いずれ治療法が見つかることは間違いないと素人考えながら思っております。それは明日であるかもしれません。
 FASは飲酒が直接的原因と考えられていますので、完全に予防することができます。
 飲まなければ良いんです。

補足

 素人考えながら、また失礼ながら、この件に関しては(も)ネット上では情報が錯綜しておりますWikipediaの該当項目は、残念ながら個人的には信用できないものと考えます。この件については後ほど取り上げるかもしれません。
 今回参照したサイト、並びに信用できそうなサイトを改めて貼り付けておきます。


 食品安全委員会による、FASについてのファクトシート http://www.fsc.go.jp/sonota/54kai-factsheets-alcohol.pdf
 CRN(CHILD RESEARCH NET)妊婦の飲酒と胎児性アルコール症候群(FetalAlcoholSyndrome: FAS久里浜アルコール症センター婦人科(非常勤)新美洋一 http://www2.crn.or.jp/blog/report/04/0404/02.html
 食品・薬品安全性研究ニュースアルコール依存症の母親から生まれた子供たちと家族の12年間にわたる追跡調査」http://www.jpha.or.jp/jpha/jphanews/anzen_news/29.html#11
 飲酒、喫煙と先天異常 http://www.jaog.or.jp/JAPANESE/jigyo/SENTEN/kouhou/insyu.htm