美味しんぼを検証してみるその4 カツオの刺身にマヨ!?

みつどんにはなにもわかっておらん

さて皆様、カツオと言ったらイタリア語でチサザエさんの弟ですが、今回は食べる方の鰹です。もちろん「おーい磯野−、や ら な い か」と美味しく頂くお話ではありません。中島は鬼畜メガネ。
鰹と言えばイタリア語でチ目には青葉 山ホトトギス 初鰹」の句が知られていますが、初鰹の季節、初夏よりも、昨今は脂がのった戻り鰹(いわゆるトロガツオ)の季節である秋の方が旬だとされるようです。もっとも、これを持ってエデッ子のやせ我慢というのはちょっと早計かも。脂が強ければその分傷みやすいので、江戸の頃は本当に初鰹の方が美味しかったのかも知れませんからね。
まあ、最近は冷凍技術も向上してますんでこの時期でも美味しい脂ののった鰹が食べられます。
 
今回はこのカツオのジャストフィットな食べ方を探求してみたいと思いますが、実はワタクシ、カツオには長らくマヨネーズをつけて食べていたんです。ええ友人からはたいそう不評です。
そう悪いのはコイツ

美味しんぼ (3) (ビッグコミックス)

美味しんぼ (3) (ビッグコミックス)

美味しんぼ3巻の第4話「料理のルール」で、カツオとマヨネーズの取り合わせを激賞してるんですね。かつて山岡の言う事を純朴に信じていた純真な私はそれ以来カツオにマヨネーズを定番としていたんです。まあぶっちゃけ黒歴史ですが。
と言う事で、過去と決別する為にも美味しんぼ検証シリーズ第4回は「カツオにマヨネーズ」を取り上げてみたいと思います。

あらすじ「料理のルール」

パリの有名レストラン「ル・キャナル」。ぶっちゃけトゥールダルジャンですが、その東京支店、ぶっちゃけホテルニューオータニのトゥールダルジャン東京店ですが開店祝賀に東西新聞文化部の面々が接待招待されます。マスコミ対策ですね。
伝統あるパリのレストラン。料理への期待に皆が胸膨らませていると、あのお方が足から登場してきました。

富井(永遠の)副部長
か……海原雄山!!
 
後年、懐と度量の大きさを見せる”至高のツンデレ”雄山先生ですが、完全敵役なツン初期だけあって風貌もこんなです。

眉毛つながりそうですね。
支配人の挨拶が終わり、各テーブルに料理が運ばれてきました。
 
富井(酒乱)副部長「こらうまい!うまいですな!」
谷村部長「オードブルのうちからとばしてると、かんじんのカモが食べられなくなるぞ」
 
むしろ富井さんの前にあるワイングラスの方が心配なんですが。
もちろん、あの男が黙って舌鼓打ってる訳ありません。
 
海原アメリカ人好みの浅ましい喰いもの”雄山「まったくフランス人というのは能がないな、何にでもバターと生クリームを使ったソースをかけなきゃ気がすまんのだからな。」*1
海原味覚音痴アメリカ人”雄山「フランス人は魚の食い方を知らんな」
 
お前、アメリカ人だけじゃなくフランス人も敵に回す気か?
さて、トゥールダルジャンと言えば何と言ってもカモ料理。食べた人に番号入りのプレートを出すことで有名です。*2
コンガリとローストされた鴨肉をワゴンで解体、骨を取り出し、ローラーにかけて骨髄と血液をソースに加え、チョコレート色に煮詰めます*3


美味そうです。もちろん大激賞する東西新聞の面々。
 
士郎「豊饒なソース、野の風味を残したカモの肉、この取り合わせは素晴らしい。」
 
あ、お前いたの?
ここで雄山が不穏な動きを見せます。
 
海原”恥の上塗りのそのまた上塗りだ”雄山「残りの半身はソースにからめずに、そのまま持ってきてくれ」
 
おもむろに風呂敷包みから取り出したのは

雄山先生、ワサビを摺り下ろしカモをワサビ醤油で食べだします。
すかさず他のテーブルにもワサビ醤油とカモを配り始めるお付きの人。あきらかに計画的な犯行ですね。
 
海原”わあっはっはっは”雄山「どうです、血のソースとやらで食べるよりわさび醤油で食べた方がよほどうまいでしょう。」
 
ドヤ顔の雄山先生。周囲の賞賛の声に止めどなく暴走してゆきます。
 
海原”美食を芸術の域にまで高める条件は、それは唯一、人の心を感動させる事だ。そして人の心を感動させる事が出来るのは人の心だけなのだ。材料や技術だけでは駄目だ!!”雄山「料理としての完成度から言えば日本の懐石料理が一番だ。新鮮で最高の品質の材料を用いて、繊細極まりない感覚と超絶的な技巧を(略)ソースでも食えるがわさび醤油でも食えるといったようなあいまいさはない。」

見事なドヤ顔、頂きました。
まあ個人的には、ソースかかってる料理からソース抜いた時点で曖昧もクソもないだろうと思いますが。カツカレーからカレー抜いてソースでも食えるから完成度が低いって言ってるようなものですよねそれ。
この傍若無人っぷりに、今まで影を薄くしていた士郎がついに牙を剥きます。
 
士郎なさけない連中だ
 
支持者もろとも先制範囲攻撃
 
士郎「慣れ親しんだわさび醤油(略)新しい味である血の(略)懐石料理の方がカモ料理より上だなどと言って(略)料理愛国主義の(略)こっけいでみっともない
 
コンボで相手が絶対に認めない部分をネチネチとピンポイントで狙います。士郎めやりおる。
一方、やけに主語の大きい炎上必至の主張をした海原”女将を呼べッ!”雄山。ここは空中戦を避け何とか寝技に*4持ち込みたいところ。
 
海原”ふ…士郎めが………”雄山「料理としての完成度を問題にしてるんだ!!懐石料理の場合、料理人の指定した食べ方を無視したら料理は崩壊する、それだけ完成度が高い証拠なのだ!!」
士郎「それは勝手な思い込みだ、懐石料理はそんな不自由な物じゃないさ。」
 
見事な論点ずらし。そしてそれにまんまと釣られる士郎。役者が違いますね。
結局、後日雄山が「完璧な懐石料理」を振る舞い、士郎が料理人の指定した食べ方以外の食べ方をやってみせる事となってしまいました。論点が成層圏の辺りまでふき飛んでます*5
 
さて当日。
後期でこそデレ相手に花を持たせる懐の大きさを見せつける雄山ですが、ツン期絶好調の最初期雄山は士郎相手でも大人げなく徹底的に潰しにかかります
繰り出される懐石の粋を集めた繊細なお料理…。


トミィ「うまい、これはうまい!!  い…いかん」
谷村部長「確かに、これはこのまま受け入れてたべるしかない……」
 
どれもこれも旨そうですが、別にちょっと豆板醤乗っけてもいけるような気もします。それは兎も角トミィ、お前大好きだ。
手も足も出ない士郎に、雄山はお造りでたたみかけてきました。
 
海原”こんな器で食えるか不愉快だ!!”雄山カツオの刺身をショウガ醤油で食べてもらう。カツオを初夏の物と思いこんでいる人間が多いが、本当にうまいのは冬なのだ……」

カツオの刺身じゃねぇ…と諦めムード漂うなか、士郎がついに反撃開始!
 
士郎マヨネーズを持ってきてくれ。」
仲居「は?マヨネーズでございますか?」
栗田(初期)さん「山岡さん、マヨネーズなんかどうするの?」
 
何気に反応がアウェーです。
関係無いですけど、およそ料亭で使うと思えない調味料どうやって調達したの板前の手作り? と長年疑問に思っていたんですが、よくよく考えてみたら士郎は懐石の常識に挑戦している訳で、どんな調味料が飛び出すかわかったモンじゃなかったんですね。「ナンプラーサフランを持ってきてくれ」「バターとロイズのチョコスプレッドだ。」とか言われなくてむしろ良かったかも知れません。
閑話休題
何はともあれ出てきたマヨを、士郎はおもむろに醤油に落とし……

 
海原”誰が何と言おうと、私の舌の方が確かだ”雄山「うわっはっは、やけを起こしおった!!」
トミィ「おい気は確かかね、何て気持ちの悪いことを……」
ゲストの外人さん「刺身にマヨネーズなんて…」
今、ナチュラルに裏切り者がいたような*6
試して見て下さい、という士郎に耳を貸さないお客(?)さんたち。刺身にマヨネーズ…まあ嫌がる気持ちは解ります。後年、舌にスプーンを押し付ける奇行を強制させる士郎もまだそこまでの神通力は得ていない様子。
ここで敢然と立ち上がったのが、後年あっちサイドに行っちゃう前のまだ読者代表的性格の強い初期栗田さん。
 
栗田さん「美味しいかまずいか、食べてみなくちゃわからないじゃない!!」
 
栗田さま「(パクッと食べて)美味しい!!」
 
栗田(嫁)「食べてみもしないでわめいていたって仕方ないですわ、批判したいなら食べてみなくちゃ…」
 
体を張って士郎を援護します。そのテンション剣幕に押され周囲(雄山含む)も次々とカツオwithマヨネーズを口に運びます。さすがは栗田さん(初期)!
「本当、美味しいわ。」「これは驚いた!!」「ほえーっ!!」
最後が誰だか解説要りませんね。
雄山は

士郎「(前略)遠洋漁業に出る漁師達が始めたことなんだ。(中略)サラダの皿に誤って落としたカツオの刺身を食べたら不思議にうま(後略)」
 
それって単にその漁師がマヨラーだっただけなんじゃね? とも思いますけど、ま、士郎の言う事だから。
思わぬ美味に驚きを隠せない一同、しかしあの人がそう簡単に収まるはずもなく。
 
海原”桑の実だ!!そうだろう!!”雄山「こんなのは邪道だ、カツオはショウガ醤油で食べる、それが決まりなんだ!!」
士(略)「同じ事を「ル・キャナル」のオーナーは言いた(略)カモは血のソースで食べるのが決まりだ、とね。」
全略「しかし、こんな場合でなかっ(略)マヨネーズで食べようとは(略)日本の偉大な文化である懐石料理を尊(略)フランスの偉大な文(略)他者の文化を理解しようとせず嘲笑したり破壊(略)野蛮で下劣だ!!
見事な啖呵。雄山先生をぐぬぬ…に追い込みます。
そして
「これだけ程度の低い客ばかり集ったのは初めてだ!!とてもつき合えん、あとは勝手に食べて帰るがいい!!」

ついに色んな意味でちゃぶ台をひっくり返してしまった海原”美食倶楽部で客をもてなすのは、その客が誰であろうと、私にとって真剣勝負なのだ。命に関わらない真剣勝負はない”雄山。勝負は士郎の勝利で幕を閉じましたとさ。……ちっ。

検証!カツオに合う調味料はどれだ!?

はい、ようやく本題です。
今回ご用意した調味料はこれ。

先ずは、美味しんぼを検証してしまいましょう。
 
雄山が(士郎も結局は肯定してる)決まりだと言う所のショウガ醤油です。

うん、普通。生姜の独特の風味と辛さが生臭みを消し、鰹の肉っぽさが浮き彫りになる感じです。生姜が意外とカライ事がよく分かります。
 
お次に士郎一押しのマヨネーズ

まあ見た目はグロイあまり良くないですが。
実を言うと士郎がやったように醤油皿にマヨ落として食べる、と言うのも試して見たんですが、醤油とマヨが入り混じって写真がもの凄くヤバイ感じになったので自重します。
で、味なんですけど。
マヨってあれで結構酸味が強いんですね。その酸味がアクセントになって美味しいです。油が全体をくるんで生臭さは感じさせません。
でもまあ、そんな驚く程か? とは思います。
ただビールには良いです。お刺身とビールを合わせると色々と問題が出る時もあるんですが、マヨを仲立ちさせるのは結構良い手段やもしれません。まあ日本酒には合わないかもしれませんが。
 

さてさて。マヨを引っ張り出してきた士郎ですが、他の調味料・香辛料はどうでしょうか?
 
先ずはお刺身のスタンダードわさび醤油

見た目が一気にマグロっぽくなりますが、不思議と味もマグロになります。ワサビのツン!が臭みを飛ばしますが、同時にカツオらしさも塗り替えちゃう感じ。
なお、醤油だけの部分も食べてみましたがやはりちょっと匂いが気になります。何らかの薬味は必要ですね。
 
次にワサビと双璧を成す和風香辛料の頂点、カラシをトライ。

なんかたんぽぽに見えますがカラシです。頭ではわかってても理性が認知を拒みますが、和辛子です。
実はこれがなかなか良かった。鼻に抜けるツン!が臭みを吹き飛ばすのはワサビと同じですが、鮮烈な辛みがあとを引かずワンポイントアクセントとしてちゃんとカツオの風味とマッチします。
聞いたところによると昔、それこそエデッ子が女房質に入れて貪り食っていたカツオはカラシ醤油で食べていたとか。一度試して見る価値はありますよ。
 
お次。生姜とわかりづらいですがこちらも定番のニンニク醤油

個人的には、生姜のあのフレッシュな辛みと香りがない分ニンニクの方が却って味がまろやかになる気がします。ただ個性がかなり強いので鰹の特徴を食ってしまう感は否めません。
 
愛され度NO.1調味料と言ったら、これを忘れる事は出来ませんね。そうメイドさんがキュンキュン言わせながら絵を描いてくれるアレです。

動揺が写真に反映してますが、ケチャップです。
食べてみましたが……甘っ!なにこれ甘い。
生臭みも消えない、というかなんかカツオの悪い所を引き立てて際立たせたような味。これを試して見ようと思った自分を殴りたくなります。
 
 
そう言えば、ウチではカツオには醤油よりポン酢を使う事が多いです。

ポン酢のみで食べてみましたが、まろやかな反面どうにもパンチ不足。これって言う強さがないです。
 
色々と混ぜてみました

ポン酢にニンニク、ちょっと柚子を散らし、大葉とマヨを。
まあいつも喰ってる方法なんですけど、結局これが一番旨いです。ニンニクの強さをポン酢で和らげ柚子をアクセントに。大葉のちょっとゴワっとした食感もマヨの油っぽさで中和されコク味追加。
”幸せは近くにいたんだね青い鳥エンド”で申し訳無いですが。
 
 
そう言う訳で本日の結論。
ぐだぐだ言わんと叩きを喰え

ところで

今回取り上げた美味しんぼですが、じつは下敷きになるエピソードがあります。
海原雄山のモデル(後に微妙になりますが)である北大路魯山人が実際にフランスのトゥールダルジャンでやらかした故事を元にしているんですね。
この辺、シチュエーションの違いなんかがとても興味深いんですが、今回は敢えてスルー。そのうち取り上げます。

魯山人味道 (中公文庫)

魯山人味道 (中公文庫)

次回予告

お刺身にマヨをとことん追求してみた!



こうご期待!!

*1:ちなみに、ロブション、デュカス、ロワゾー等がキュイジーヌ・モデルヌでフレンチを席巻したのが丁度この本が出る直前(初版85年)、も一つちなみに、その料理の特徴はバターや生クリームに頼らない事です。何というか、時代の狭間って感じですね。アップデートが遅いぞ雄山!

*2:ちなみに日本人第一号は53,211番の昭和天皇(当時皇太子)。ホテルニューオータニ東京にあるトゥールダルジャンでは53,212番からナンバリングしているとか。

*3:ちなみに胸肉の食べ方。ちなみにこれは三つ星から二つ星に陥落する前の遣り方で現在とは若干変わっているようです。ちなみにモモ肉はグリルしたそのまま出されるそうです。ちなみに、コースの平均予算は東京店で30,000円だとか。モチロンわたしゃ喰った事ありません

*4:空中戦:話題を拡散させ多方面から攻め合う攻防。寝技:得意な分野に引きずり込む事。はてな用語。※本気にしないように。

*5:はてなでは良くある事です。

*6:所で。刺身にマヨなんて…と言う常識って外人さんの間でも共通認識なんですかね?カルフォルニアロールにマヨ入ってますよね?海老とか海産物にマヨ入りカクテルソース合わせるのもワリと普通だと思うんですが。