美味しんぼを検証してみる。

T-3don2009-04-01

 美味しんぼをダシに添加物批判批判のエントリーを揚げようと(今上手いこと言った)、昔読んで思いっきり突っ込んだ覚えのあるエピソードを古本屋で探していたんですが、何せ敵は百巻越える膨大な巻数。なかなかめっかりません。こうゆう時は集合知。ダメ元でグーグル先生に「美味しんぼ 化学調味料」と尋ねてみた所、軽く13000件ほどHITしましたが、幸運なことに2ペ−ジ目でそれらしいエピソードを発見しました。おまけに、96巻までの全エピソードをダイジェストしているサイトまで見つけてしまい、集合知恐るべし。いやあ便利な世の中です。
 捜索のために美味しんぼを立ち読みしていて気付いたんですが、長寿連載だけに美味しんぼとのつきあいもいい加減腐れ縁長期間にわたってるんですね。あえて綺麗に言うなら人生を共に歩んできたわけで、昔のまだ青臭い頃とは読んだ印象が結構違うことに気付きました。年輪ですねぇ、感慨深いです。最初に読んだ頃は、なんだかんだと言い訳しながらも古くさい価値観が気に入らなかったんですが(主要人物全員結婚して子供いて共働き、でも家事は奥さんの担当、とか)、今読むと全体に漂う半端な自然信仰がいちいち鼻につきます。何でもかんでも農薬と添加物のせいにしてんじゃねえよ、と。これも成長でしょうか。

ドライビールはスプーン味?

 さて、捜索中にちょっと凄い主張を見つけました。美味しんぼ第18巻収録『ドライビールの秘密』。内容はコチラのダイジェストを見てもらうとして。ま、内容を一言で説明するなら

アサヒスーパードライはスプーンを舌に押し当てて剥がしたときの味。

 という主張です。このエピソードは未読だったんですが、スプーン云々って話はスーパードライが席巻していた時期私も耳にしたことがあります。錆びたスプーン味とか。まさか元ネタが美味しんぼだったとは。
 早速ツッコみエントリーを――と思ってたんですが、このエピソードに対してかなり的確(かつとても面白い)なツッコミをしているブログを発見してしまいましたので、そちらに譲りたいと思います。美味しんぼが僕に教えてくれた9の事実

1 野菜は無農薬でなければいけない。
2 料理に化学調味料を使ってはいけない。
3 チェーン展開を始めた飲食店は味が落ちる。
4 あん肝はフォアグラよりうまい。
5 寿司を握るときにシャリを捨てる職人は二流。
6 アサヒスーパードライはスプーンを舌に押し当てて剥がしたときの味。
7 牡蛎とワインを一緒に食べると嫌な後味。
8 人生における大概の揉め事は料理で解決できる。
9 海原雄山ツンデレ

今まで美味しんぼを読んでいて勉強になったことを箇条書きにしてみました。

 このうち2・5・6についてかなり詳細に突っ込んでいらっしゃいます。化学調味料について(旨みを足せる料理には不要だろうけどチャーハンには必須だろう)は、鋭い指摘だと思います。私は化学調味料抜きのチャーハンも好きですけど。ザーサイで旨みを足すのとかね。
 さてさて、ドライビールの話ですが。

たかだか、スーパードライが口に合わないというだけの話なのに、こんな珍妙な方法で不味いことを証明してみせようとするところに、美味しんぼの狂気を見たような気がしました。
この後、ドライビール、またドライビールの愛飲家に対する罵詈雑言がふんだんに盛り込まれているんですけど、興味のある人は読んでみてください。

 こんな珍妙な方法、とは、先ずモルツやエビス、ハートランド(名前は出さないまでも瓶がそのまんま)といった「本格的ビール」を飲んだ後、ドライを飲ませて「アレ?味がしないな」と言質を取り、詳しくケチを付けつつおもむろにスプーンを舌に押し付けさせる、と言う方法で、まあアンフェア極まりないやり口です。味や香りが強い食べ物の後に淡い味が評価できなくなるのは当たり前の話です。例えば黒ビールの後にその「本格的なビール」を飲ませたらどういう感想になりますかね。
 罵詈雑言の方は、これがまた傑作で「一過性のブームに踊らされてるだけ」「こんなビールが主力になったら日本の酒飲みは恥じ入るべきだ」とかなんとか言っちゃってます。現状、ドライはおろか第三のビールが市場席巻しちゃってますね。酒飲みのみなさん、恥じ入らなきゃいけないらしいですよ? まあ、私は恥じ入るのは適当な理屈で自分の嗜好、わがままを正当化しているマンガ原作者だと思いますが。

「でもドライビールのほうが飲みやすいって人が多いね」
「それはボディの酒を飲む体力がないからですよ。酒を飲みすぎて肝臓や胃腸を弱めている人はコクのある酒はつらくなるんだ。」

 この話におけるドライビール批判は、詰まる所ここに落ち着きます。言い訳がましい表現の裏側に、「麦の味が残ったボディのしっかりしたビールが「本格的」で、スッキリと飲みやすいビールは「宣伝のイメージに踊らされてるだけ」のお酒の良さが解らない軟弱者用だ」という作者のドライビール観が透けて見えます。
 白状すると、私はスーパー・ドライはあまり好きじゃありませんでした。モルツ党でヱビス派なオールモルトビール大好き人間ですので、ハッキリ言ってビールの好みはマンガ原作者と同じだろうと思っています。でも、少なくともスーパードライが好きで飲んでいる人に、イメージに踊らされているとは言いません。それが言える人は、自分がイメージに踊らされない自信がある人だけでしょう。私は違います。ビールの味を決める要素の上から3番目は、ラベルだと思っている人間ですので。(因みに、上から環境・グラス・ラベル(商品イメージ)・銘柄の順。最後の二つは不可分ですが。最も、ビールとそうでないモノの差は結構大きいとも思ってます。発泡酒や新カテゴリーとビールには越えられない壁があるように思います。昔友達に頼んで試飲会をやった時の結論で、今はどうか解りませんが)マンガ原作者はそう思わないようですが、でしたら半端な肉体論(?)に逃げずに、「スッキリして飲みやすいビール」が市場を席巻し、今に至るまで支持を受けている事を踏まえ、ハッキリと根拠を示して反論して欲しい所です。

ビールがマズイのも添加物のせい?

 さてさてさて、実を言うと以上は前振りで、ここからが本題です。
 件のエピソードには、ドライビールの味が「薄い」原因として、次のような記述があります。

「正統的ビールは麦芽とホップしか使いません。大麦だけ使うより原価が安くなるのと味が軽くなるという理由で米、コーン、スターチを使うんだ。」
(中略)
「ドライビールの各社の説明で共通しているのは、発酵度の高い酵母を使うこと、コーンやスターチの補助でんぷんを使っていることだ。発酵度の高い酵母を使うとアルコール分は高くなり味は辛口になる。」
(中略)
麦芽を少なくして米やコーンを使えば辛口で麦の味のしないビールができるわ」

 米・コーンの補助でんぷんを、ドライビールの元凶と見ている訳ですね。ここで「薄い」という表現を使っている所がポイントでしょう。風味を改良している、と受け取ることを拒否しています。
 コクのあるボディがしっかりしたビールが好きな人もいれば、ホップがぷんと香るようなビールが好きな人――私も好きですが――もいるし、スッキリと飲み口爽やかなビールが好きな人もいるでしょう。各自が好みのビールを口にすればよろしい。一つの立場から他を安易に攻撃するから理屈がおかしくなったり卑怯な実験でお茶を濁さなければならなくなるんです。
 が。
 まあ、それはそれとして。
 実は今、偶然にも補助デンプンが味にどんな変化をもたらしているか、実際に確かめることができるんです。ここ数日間限定ですが。というのは、麒麟麦酒一番搾りをリニューアルしたからです。KIRIN_一番搾り_一番搾り物語:麦芽100%

新しい一番搾りをつくりたいと思いました。めざしたのは「すっきり」と「うま味」の両立。
一番搾り製法によるおいしさを追求し、同時に素材のうま味を引き出すために原料を見直す。製法、素材の模索を重ね、そうしてたどりついたのが麦芽100%の一番搾りでした。

 要するに、今までの一番搾りには米・スターチが含まれていた、という事です。
 商品入れ替えにはタイムラグがあります。つまり、今なら新旧どちらの一番搾りも手に入ります。
 はい、買ってきましたとも。百聞は一見にしかず。飲み比べてみれば、米・スターチが味にどんな影響を与えているか、ハッキリと確認する事ができます。最終的に自分の舌の問題なのですから、確かめるのも自分の舌でやるのが一番確実かつ手っ取り早いですね。

レビュー 一番搾り新旧対決!

……と言うことで、現在実験中です。実験が終わり次第ここに追加したいと思います。しばらくお待ち下さい。


 実験終了! その前に一言。上は「実験したらすぐに追加するよーん」と見せかけて追加しないエイプリルフールネタの一環です。この時点で既に意味不明ですが、一応残しておきます。

 一番搾り
 なんだかんだで愛飲していたビールです。
 原材料麦芽・ホップ・米・コーンスターチ アルコール分5.5 見事に補助デンプン添加されてます。
 飲み口は爽やかの一言。柔らかく口中を刺激して、ほのかにホップを漂わせながら余韻がたなびいて……。美味しんぼ風に表現するとそんな感じのビールですね。皆様お馴染みでしょう。ただ、味わいがやや軽いのは以前から気になってはいました。最初のビール、ぐいぐいイケルビールというイメージですが、ラガーの方が好みに近いかも。


 一番搾り
 原材料麦芽・ホップ 以上。アルコール分も5%と、ここまでは美味しんぼの言い分通りですね。
 で、飲んでみたんですが。これが結構いけます。オールモルトビールは、某マンガ原作者の意見とは裏腹に結構敬遠されがちですが、このビールならいけるんではないでしょうか。爽やかな飲み口を残しながら結構強いキックを感じます。香りも立っていますし、なかなか良いんじゃないでしょうか。でも、キックが強い分ちょっと酸味を感じますね。やや味わいがばらけている所も気になります。まあ、一言で言うならグレードアップした一番搾り、なんでしょう。良くできたビールですよ。


 結論
 確かに、補助デンプンを添加したビールは、味わいが軽くなります。私としては、これは新ジャンルのレビューの時にも言ったことですが、「薄い」のではなく、「軽い」、いやむしろ「透明感」と表現するべきだと思いますが。ヱビス等と比べると、舌の上にうすーい透明なガラスが一枚乗っているような、水飴を舌に乗せた時に感じるもったり感? そんな感じを受けますね。ただ、じゃあダイレクトに刺激を感じる「本格的な」ビールが良いのかというと、状況に依るんじゃないかと私はそう思えてならないんです。最初の一杯と、〆の一杯。アテが油モノと刺身。喉が渇いている時と宴席で乾杯してる時では、美味しいビールは変わると思うんですよ。ヱビスは確かに良くできた美味しいビールですが、ずっとそれだけでは少々重いですよね主に懐が。乾杯だけ発泡酒、とか、最初は一番搾りヱビス、黒生なんて飲るのが、実は一番良い選択ではないかと、そう思う次第です。


 なお。こんな0重盲検なんて信用ならん、と言う科学的なお人はTAKESANさんのコチラのエントリーをお読み下さい。嗜好品をテストする事は難しいんですよ。


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